第百章 オドラント 1.経済戦構想(その1)
少し短いです。
南街道の視察を終えて戻った俺は、オドラントのダンジョンでエメンと贋金作りの計画について話し合っていた。
「ボス、贋金でテオドラムに喧嘩を吹っ掛けるって仰いやしたが、一体どういう具合にやるおつもりなんで?」
「基本的には貨幣の信用失墜を狙う。例えばテオドラムの金貨に大量の贋金が混じっていたら、商人たちもテオドラムの金貨を使うのを嫌がるだろう? そうやって、国際的な取り引きからテオドラムの貨幣を締め出す。あとは……贋金が大量にあれば、貨幣の流通量に対して商品の量が少なくなって物価が上昇するんだが……それを引き起こすのには物凄い量の贋金が必要になるからな。あまり現実的じゃない。やはり主眼は信用失墜の方に置くべきだろう」
第二次大戦中のドイツのベルンハルト作戦や日本の杉工作など、偽札が経済攪乱の手段として使われた事例は多い。対テオドラム戦でも有効な筈だと思っていたんだが……エメンはきまり悪げな表情でこっちを見ている。
……何だ? 何か拙かったか?
「あの……ボス、テオドラムの貨幣ですが、元々信用なんてありやせん。商人たちも取り引きにはイラストリアやマナステラの貨幣を使ってるくれぇなんで」
……あれ? 俺の経済戦、始まる前に終わっちゃった?
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クロウはエメンからテオドラムの通貨の現状についてレクチャーを受ける事になった。テオドラムの貨幣は、金貨・銀貨・銅貨の全てで品位にばらつきがあり、しかも古くなって表面が摩耗したものも相当数が流通している。そのため、テオドラム国内でさえイラストリアやマナステラの貨幣が商取引に使われているという現状は、クロウを驚かせ、かつ呆れさせるのに充分であった。
「……つまり、元からテオドラムの貨幣に信用なんて無いわけか……」
「そういうこって」
「しかし……国の通貨がそんな有様じゃ、貿易にも不都合を来すだろうに。テオドラムは手を拱いているだけか?」
「いえ、鋳直すってぇ話はしょっちゅう出るんですがね。何だかんだで実行されないんでさぁ。それでも、さすがにそろそろヤバイんじゃねぇかって、盗人仲間でも噂になってやしたね」
「それは……そろそろ貨幣の改鋳があってもおかしくないという事か?」
「へぇ、そういうこって」
ふむ……これは改鋳計画の有無を確認する事から始めた方がいいな。ヴィンシュタットのケイブラットとケイブバットたちに働いてもらうか、新たに強化した怨霊部隊を使うか……それとも、シルエットピクシーやシャドウオウルなどのモンスターを動員するか……ダバルと相談する必要があるな。




