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第九十九章 王都イラストリア 1.国王執務室(その1)

 早朝の国王執務室。もはや内装と一体化したように馴染んでいるいつもの四人組は、しかし今朝はいつもと少し違う困惑の表情を浮かべていた。しばらく黙していた四人の中で、黙っていても始まらぬとばかりに沈黙を破ったのは宰相である。



「ビール……エールの一種であるのかな?」

「そのようです。ただ、従来のエールとは一線を画す苦みと爽やかさがあり、冷やして飲むそれは格別な味だとか」

「冷やして……って、ウォーレン、誰にでもできる事じゃねぇだろう?」

「ええ。しかし亜人たちは何やら魔道具を使ってそれを成し遂げたようです。作り方を知っている以上、同じ魔道具を量産する事もあり得るでしょう」



 ウォーレン卿の回答に、目を光らせて飛びついたのは宰相である。



「馬車で運べる程度の大きさなのか!?」

「実物を見た(わけ)ではありませんが、恐らく」



 宰相が凄い勢いで食い付いたのには理由がある。この世界でも、冷蔵する事によって賞味期限を延ばせる事は経験的に知られている。ただ、それを実現する方法はまだまだ未熟であった。()(むろ)で酒などを保存する技術は知られているが、場所を選ばずにできる方法ではない。冷却の魔術もあるが、これは対象を短時間で氷結させる術であり、長期の冷蔵という目的には適していない。実際に冷蔵するとしたら、定期的に術をかけ直す必要がある。魔道具とした場合もこの問題は同じで、魔力あるいは魔石の消耗が著しい。その上で効率を追求しようとすれば、保管する空間を大きくして、熱慣性により(ぬる)むのを遅らせるしかない。結果的に、冷蔵のための空間は大きなものとなって、馬車による運搬などに向かないサイズとなっていた。


 クロウはダンジョンマジックで生み出した()(むろ)に携帯ゲートを繋いで随時氷の補給を行ない、また、予め冷やした樽などを一種の遮熱結界――を生じさせる魔道具――で覆う事によって熱の移動を劇的に遮り、温まるのを防いでいた。遮熱の結界を張るための魔力がかなり必要になるが、クロウは大量に作製した魔石を惜しげもなく使って、その問題を(ちから)(わざ)でクリアーしていた。


 ()くの如き情勢下にあって、亜人たちが運搬可能な冷蔵の魔道具――しかも、五月祭で供給したビールやハーブティーの量からみて容量は相当に大きい筈――を使っていたとあらば、宰相の立場として聞き逃す(わけ)にはいかなかったのである。



「ものを冷やす魔道具ねぇ……酒を美味く飲むのにしか使えねぇんじゃねぇか?」



 ……(もっと)も、中にはピンとこない者もいたが。



「いえ。畜肉・魚肉は無論、食品の多くは冷やして保存すると長く()ちますから」

「……そいつぁ無視できねぇ話だな」



 真っ当な軍人なら誰でも食糧補給の重要性は知っている。肉類などは干し肉や塩漬けにして重量軽減と保存期間の延長を図っているが、生野菜などは充分な量を調達するのが意外に難しく、兵士の体調不良の原因となる事がままあった。かつて地球世界でも、ビタミン不足が原因で船員の間に壊血病が流行(はや)った事があったが、それと似たような問題をこちらの世界も抱えていた。第一、新鮮な食材の方が美味(うま)いに決まっている。



「もしその技術を得ることができれば、食品の保存が……いや、食品の価値自体が根本からひっくり返るぞ! 是が非でもその技術を手に入れるべきじゃ!」

「日()ちの話が出たついでにもう一つ。ビールという酒は、保管の方法が適切なら、数ヶ月は味わいを損ねる事無く()つそうです」



 ポカンとした様子の三人であったが、今度はローバー将軍が真っ先に食い付いた。



「おいっ! ウォーレン、ビールってなぁエールの一種だと言わなかったか? 何でエールがそんなに()つんだよ!?」



 酒の話だと反応がいいな~と思いつつ、ウォーレン卿は答えを返す。



「さぁ? ただ、学院のドワーフたちがそう聞いたそうです」



 この世界のエールは、ホップを使っていない事もあって、日()ちは良い方ではない。様々なハーブを使ってはいるが、一月(ひとつき)()てば上出来で、しかもかなりハーブ臭がきつくなる。魔術を使って長()ちさせる方法もあるが、こっちはコストが馬鹿高くなる。普通に気をつける程度で保管して数ヶ月()つというのは、酒飲みなら聞き捨てにできない話であった。


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