第九十八章 南街道 1.テオドラムの襲撃(その1)
今回の終わりから次回にかけて、少し殺戮シーンが出てきます。
ヴァザーリからリーロットを経てサウランドに至る、通称南街道。その街道を、リーロットからサウランドへ向けて東に進む四台の馬車があった。乗っているのは全員が亜人の若い――長寿のエルフでは外見は当てにならないが、少なくとも若く見える――男女。自分たちの置かれている立場を自覚しているため、警戒を怠らずに進んでいく。
その馬車の少し後ろを、即かず離れずに気配を隠して進む七騎の一行。彼らはテオドラムから派遣されてきた兵士で、今は単なる冒険者を装っている。気配を隠しているつもりだろうが、彼らの存在は亜人たちに察知されていた。しかしその亜人たちも、自分たちの前方に布陣しているテオドラムの一個小隊の存在には――距離が遠いという事もあるが――未だ気付いていなかった。
だが、それらの一切を掌握している者もいたのである。
『進路前方に約五十名……恐らくは歩兵の一個小隊、後方に七騎か……』
『マスターのダンジョンマジック、本当に便利ですね~』
クロウが使用したのは、最近使えるようになった「仮想ダンジョン」というスキルである。これは任意の領域に対して、仮にそこをダンジョン化した場合にどのようなものになるのかをシミュレートするスキルで、ダンジョン化した場合に取り込む事になる存在なども――解析結果付きで――教えてくれる優れものだ。このスキルを使用して、クロウは馬車の周辺に潜むテオドラム兵の数や配置をあっさりと見破っていた。
『まぁ、便利と言えば便利だな。しかし……前後二手に分かれていると、一気に片付けるのは難しいか』
『どう……しますか……?』
『待ち伏せているやつらは俺が片付ける。後方の七騎については、済まんがお前たちで片付けてくれるか?』
『はぁい、ますたぁ』
『お任せ下さい、ご主人様』
『遠慮は要らんから、一気に片付けてくれ。それと……ニール』
『へい?』
『お前たちは七騎の後方に廻って、連中が逃げ出さないように網を張ってくれ』
『それだけでいいんで?』
『あぁ。うちの連中は戦闘能力は高いが、機動力はそれほどでもない。騎馬の相手だと逃げられるかもしれん。お前たちなら対応できるだろ?』
『解りました』
『さて、とっとと済ませようか』
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南街道の、位置的にはニルの町の北西側に当たる位置に布陣したテオドラム軍の歩兵一個小隊。対亜人戦の特殊訓練を受けたその部隊は、街道脇の森の中に潜んで、じっと気配を探っていた。
「……馬車の音が聞こえてきた。もうすぐ視認できる筈だ」
「よし、手筈どおりにやる。完全に包囲するまで気取られるなよ。亜人、特に獣人どもは感覚が鋭い」
「解っている」
それが彼らの最期の言葉となった。
『よ~し、こっちは終わったぞ』
『お見事……です……ご主人様』
『五十人全員に狙いを付けるのはちと面倒だったけどな。それさえ済ませてしまえば、後は異空間に取り込むだけだ』
クロウの空間魔法は、これと狙いを付けたものを異空間に取り込む事ができる。今回はターゲットの数が多くて手間取ったが、ターゲッティングさえ済ませれば、異空間に取り込むのも、取り込んだ先の異空間を酸欠環境にして窒息させるのも、呆気ないほど簡単な仕事だった。ダンジョンを展開した訳ではないため、こちらへ向かってくるエルフたち――種族的に魔力の流れには敏感だ――にも気付かれていない筈だ。たとえ友軍のエルフが相手だとしても、クロウは自分の手の内を安易に晒す気は無かった。
・・・・・・・・
亜人たちを後方から尾行しているテオドラムのリーロット派遣部隊の七騎。そのリーダーを務める「店長」は、前を行く亜人たちの馬車の音に何の乱れもない事を訝っていた。
(おかしいな……。計画ではそろそろ襲撃予定地点の筈なんだが……)
しばらく考えていたリーダーは、配下の六騎に近づくように合図する。
「おい、少し先を急いでみよう。何か予定に乱れがあったのかも……」
言い終わる前に、リーダーの首が高速水流によって斬り飛ばされた。




