第十章 わるだくみ 2.実働部隊の選定
今回は少し短めです。クロウのろくでもない計画が次第に明らかになってゆきます。
『ますたぁ、ヴァザーリの町はぁ、どぅいぅ風にぃ、襲うんですかぁ?』
『それなんだがな……。一つ聞きたいんだが、エルフや獣人は奴隷狩りに抵抗したり、攫われた仲間を取り返したりはしないのか?』
『ご主人様……奴隷狩りの原則は……短期間での……根絶やしです……救援が来る前に……引き上げます』
『女子供を攫って、男は大抵は殺しちゃうんです。家財道具も根こそぎです』
『戦う術を持つ男どもは皆殺し。他の村に気づかれんうちに事を終えて立ち去る。攫った女子供はすぐに町に運び込むため、途中で奪い返す暇もない。町に運び込んでしまえば貴族の私兵もおるしのぅ』
『なるほど。胸糞悪いが、手際がいいと言えばいいな。しかし、亜人の村が大きければ抵抗できる筈だろう?』
『エルフや獣人はさほど大きな村を造らんのでな。あと、魔術に長けたエルフの村を奴隷狩りが襲う事はまずない。今回は血迷った馬鹿領主がおったための例外じゃ』
『大規模な奴隷狩り以外に、単独行動の亜人が攫われる事もあるだろう。その場合にも奪還はなしか?』
『単独行動中に……攫われた場合……犯人の目星が……つきにくく……後を追いにくいです』
『もし見つかっても、一人を奪還するために領主軍を敵に回すのは危険すぎるしのぅ、泣き寝入りするしかないんじゃ』
なるほどな。大体の事情は読めてきた。それなら……。
『仮にだが、攫われた者の所在が判っていて、軍が出動しにくい状態にあれば、エルフや獣人は仲間の奪還に動くと思うか?』
『そのような条件であれば……動くじゃろうな。種族や村が違っていても、奴隷狩りには皆、頭に来ておる筈じゃ。明日は我が身かもしれんしのぅ』
『なら、エルフたちへの貸しを取り立てるか。俺たちでヴァザーリ伯爵軍の動きを牽制する。その隙に奴隷の奪還を実行してもらおう。エルフだけでなく獣人たちの糾合もやってもらうとするか』
『一つ質問があるんじゃが……』
『後だ、爺さま。ヴァザーリ伯爵の私兵は多いのか』
『いや……南部貴族の私兵は大体少なめじゃ。バレンよりも確実に少ないじゃろうな。その代わりに王国軍が展開しておる』
『王国軍の駐屯地はヴァザーリ伯爵領から近いのか?』
『いや、魔道具で知らせがいったとしても、救援準備に早くて一日、軍の到着まで二日といったところか』
『充分だ。それで、爺さま。質問って何だ?』
『奴隷の所在をどうやって探るつもりじゃ?』
『ヴァザーリは奴隷交易が盛んなんだろ? なら』
と、俺は言葉を切って、皆の顔を見回す。
『定期的な奴隷市って開かれてないか?』
明日は新しい章に入ります。




