第九十四章 制裁計画 2.シュレク
怨霊の活動域をテオドラム国内に広げる事ができないか。この問題を検証するために、俺たちは「怨毒の廃坑」にやって来ていた。
『怨霊の行動範囲を広げた時の事ですか?』
あの時実務を取り仕切ったのは、ダンジョンコアであるオルフだからな。詳細を訊くとしたらオルフだろう。
『と言われても……クロウ様から戴いた魔石を要所要所に設置して、魔力の及ぶ範囲を広げただけですから……』
『彼らを……例えば首都ヴィンシュタットで活動させる事は可能だろうか?』
クロウの問いに、オルフはしばらく考えた後で答えた。
『単に出現させて徘徊させるだけなら、多分可能でしょう』
『何が問題だと思う?』
『第一に、活動時間が限られます。恒常的な活動は難しいでしょう。第二に、隠密行動は困難だと思います』
オルフの指摘は、俺にとっては意外なものだった。
『活動時間の問題は予想していたが、隠密行動が無理というのはどういう事だ? 怨霊は隠密活動に向かないのか?』
神出鬼没のイメージがあるんだが……
『問題は魔力、正確にはその力場です。怨霊が活動できるためには、魔力あるいは魔素の充満した空間が必要ですが、そんな場所が突然現れたら必ず注意を引きます』
そっちか~……。
『怨霊本体でなく、活動できる条件、正確には環境条件の変化が目立つのか……』
当てが外れた恰好のクロウであったが、ここでハイファが一計を案じる。
『オルフ……怨霊自体を……強化して……活動させる事は……可能ですか?』
『可能ですが、活動期間は短くなりますよ? 多分、一日も保たないかと』
『ご主人様の……ダンジョンマジックで……怨霊を……転送……できませんか?』
短時間しか動けないなら、短時間で任務を完了させればいい。ハイファの提案を受けてクロウは考え込む。
『転送か……ダンジョンマジックでもできるが……寧ろ転移トラップを利用できないか?』
『転移トラップ……』
『……ですか?』
『あぁ。予め仕込んでおいた帰還用の転移トラップを目印に転送、任務終了後はトラップの機能を使って帰還する』
『転移の魔法陣を解析して、行く先を辿られるんじゃ?』
『使い捨ての魔法陣にするか、あるいは中継拠点を罠として使う』
『罠……ですか?』
『例えば毒や瘴気が充満していたり、生身では耐えられない高温や低温にしておくとかな。中継拠点を使い捨てる案もあるが、こっちはそれなりに面倒だしな』
俺の提案を聞いたオルフとハイファはしばらく考えていたようだが、結局はやってみないと判らんという結論に達したようだ。
『運用方法が問題になりそうです。何回か試してみて、問題点を洗い出すのがよいかと』
ふむ。ヴィンシュタットで諜報任務につけるのは時期尚早だが、ホルンの言っていた仲介者を炙り出すのには手頃かもしれないな。とりあえずは実行可能かどうかのテストをしつつ、五月祭終了まで待つとするか。




