第九十四章 制裁計画 1.洞窟
少し短いです。
俺たちは一旦洞窟へ戻り、ホルンから聞いたコーリーの素性――テオドラムが亜人奴隷を集める仲介をしていた一人――について、眷属たちと討議を重ねている。五月祭の準備で忙しいホルンたちには帰ってもらった。
『偶然とはいえ制裁対象の一人を処分できたわけだが……その現場をテオドラム兵に見られているのがちと微妙だな』
『何か問題なんですか? マスター』
『テオドラムがどう判断するかが判らん。俺たちの意図を怨霊たちの復讐とみるのか、亜人たちの報復だと見なすのか』
『両方であると判断するかもしれませんな』
『その場合、俺たちの情報収集力を過大に評価する事になる。テオドラムが俺たちをどう評価するのかが判らん以上、こっちとしても動きにくい』
『あ~……そういう事ですか』
『補足すると……報復の対象に……王国が……含まれるのかどうかも……気になっていると……思われます』
『あぁ、それもあったな』
『ますたぁ、どぅしますぅ?』
『情報を与えないという点では何もしないのが一番なんだが……反面で主導権を奪われる事になるな』
『しかし……何もしなければこれで終わりと、つまりは怨霊たちの復讐であったと考えるのではございませんか?』
『あぁ、そうなるだろうな』
『かといって……他の仲介者を……襲えば……亜人たちの……報復だと……受け取られます』
はてさて、どうしたものかね。
クロウはしばし腕組みをして考え込み……やがて結論を口にする。
『ふむ……どうせもうじき五月祭だ。それが済むまでは余計な面倒を起こしたくない。それに、五月祭での計画が首尾良くいけば、テオドラムは自分たちが狙われている可能性に気付くだろう』
亜人たちが関わっている時点で、単なる競合ではなく敵対だという可能性が思い浮かぶだろう。しかし、亜人たちが単独で敵対しようとしているのか、それとも背後にいる競合者が亜人たちを利用しているのかは判断できまい。前者だとすると、自分たちより劣っていると主張していた亜人たちが砂糖とビールを独自に入手した事になるが、それを素直に認める事ができるかな……。心情的には後者の可能性に縋りたくなるだろう。
『すると、コーリーの一件も亜人たちの報復だと受け取られますか』
『いや、そこで俺たち……というか「廃坑」が動かなければ、今度は「廃坑」が亜人たちに与しているかどうかが判らなくなる』
『それじゃぁ……』
『しばらくは様子見だ。まぁ、これも相手の出方次第なんだが……仲介者どもが怯えて逃げ出す可能性もあるな。監視を怠らないように忠告しておくか。それに、五月祭以降は亜人に対するテオドラムの詮議が厳しくなる筈だ。今更かもしれんが、これも併せて忠告しておこう』
『けど、主様、テオドラム国内にいるのをどうやって監視するんです? 亜人たちはテオドラムに潜入できないですよね?』
『国境の出入りを監視すればと思っていたんだが……それだと大事か』
ふむ。テオドラムでの潜入活動に向いた人員を増やすか。やっぱりアンデッドかなぁ……いや、待てよ。
『怨霊たちの活動範囲を広げる事はできないか? もし可能なら、単なる監視だけでなく、脅かして炙り出す事もできそうだが』




