第九十二章 王都イラストリア 3.国王執務室
いつものように早朝の執務室に、いつものメンバーが顔を揃える。前回の会合から二日しか経ってないところが、いつもとは少しばかり違うが。
「前回の集まりから二日しか経っておらぬというに、悪いな」
一応という感じで宰相が詫びるが、別段彼の不手際というわけではない。シュレクでの一件に関係して新たな情報が入ったため、急遽という感じで会合を立ち上げただけである。事態の推移が急だからと言って対応を後回しにすれば、後で泣きを見るのはこちらだ。軍人である二人にはそれくらいの事は解る。
「気にせんで下さい。事態の展開が急なのは、宰相閣下のせいじゃないでしょう」
「で、何があったんです?」
無駄口は必要無いとばかりに早速本題に入る事を要求する軍人二人。宰相もほっとしたように、前置きも何も無しでいきなり本題に入る。
「前回も話に出たコーリーだが、どうやら亜人奴隷の入手を仲介していたらしい事が判明した。とは言っても、奴隷の調達を一手に引き受けていたわけではなく、一回か二回仲介を務めた程度らしいがな」」
軍人二人はその情報をじっくりと咀嚼する。
「Ⅹの仕業って線が濃厚になってきたってわけか」
「同時に、前回の私の意見は修正を迫られる訳ですね」
ウォーレン卿の発言に、はて、と言う感じで眉を顰める三人。
「どういう事だ? ウォーレン」
「前回は、わざわざ五頭ものスケルトンワイバーンを動員した理由を、国境の向こうのモルヴァニア軍に知らしめるためと推測した訳ですが、新たな情報を加えて再検討すると、別の解釈も成り立ちます。すなわち、他の仲介者、あるいは奴隷商人に対する宣告ですね」
ウォーレン卿の指摘について改めて考え込む三人。
「だがよ、ウォーレン。奴隷商人はさっさとトンズラこいてるだろうからⅩの狙いは仲介者だとしてもだ、他の仲介者がコーリーってやつの事を知ってるとは限らんだろうが?」
「ええ。ですがこの後二人目、三人目と処刑していけば、いずれは他の仲介者も気付く筈です。それまでじっくりと時間をかけるつもりなのかもしれません」
「炙り出しか? Ⅹのやつも仲介者全員を突き止めている訳じゃねぇか……」
「仮に炙り出しだと判っていても、次に処刑されるのは自分かもしれないと怯えながら、彼の国に留まる者がどれほどいますかね」
「まともな神経をしてりゃぁ逃げ出すわな。あるいは王国軍の許へ逃げ込むか」
「どちらにしても炙り出しは成功です」
「ふむ……しかしⅩめは、一部とはいえ仲介者の素性まで突き止めておるのか」
「恐るべき執念と能力ですね」
買い被り過ぎである。
コーリーが亜人奴隷の仲介を務めていたのは全くの偶然。勿論クロウはそんな事は知りもしなかった。しかし、イラストリア王国首脳陣の中ではⅩという存在はどうしようもないほど肥大化しており、偶然などという興醒めな答えが出てくる余地は無いのであった。




