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挿  話 新たな同居者

感想欄でご意見を頂戴したハエトリグモの従魔登場篇です。そのうち活躍の場が出てくる……筈。

『ご主人様……そろそろ……お伝えしなくては……ならない事が……あります』



 マンションの自室で朝食を済ませた俺に話しかけてきたのは、株分けして鉢に植えて自室に置いてあるハイファの分体だ。ここに常駐してくれているので、俺は気兼ねなくマンションを空けて向こうの世界に入り浸る事ができる。


 そのハイファが切り出してきた内容だが、心当たりが無いでもない。



『ひょっとして、あのゲートフラッグの事か?』



 二年程前にエッジ村の山小屋からここへ移したゲートフラッグは、魔力など無い筈のマンションの一室で、すくすくと大きくなっている。既に以前の三倍じゃきかないくらいの大きさに成長し、年中花を咲かせている。季節感のない生長と開花は、エアコンの恩恵による部分もあるんだろうが。



『お前もそうだが、魔力など無い筈のこちらの世界で元気に生きていけるのは、ひょっとして俺が魔力を垂れ流しているからか?』



 以前は向こうの世界でも魔力の漏出に無頓着だったんだが、勘の良い魔術師がいたら気付かれるおそれがあると言われて、漏出を押さえるように努力したんだよな。正確には「壊れたダンジョン」の能力で、エネルギーを吸収するダンジョン壁の能力を(まと)うようにしただけだが。漏出した魔力を再吸収する事で、魔力の垂れ流しを抑えた(わけ)だが、こっちのマンションではそのまま垂れ流しにしている。ハイファが常駐しているし、うちの子たちが遊びに来る事も多いし、その方が良いような気がしたからな。



『……多分……そうだと……思います』



 ゲートフラッグは元々、ダンジョンなどから漏れ出す魔力を吸って生きるモンスターだ。微弱な魔力があれば生育できるそうだし、俺から漏れる魔力程度でも充分に生きていける……どころじゃないよな。あの成長ぶりは。



『ですが……ご主人様……お話ししたいのは……もう一体の……従魔候補の……事です』

 もう一体?


『ハイファ、もう一体とは何の事だ? ここに棲みたい者が誰かいるのか?』

 うちの子たちなら棲みたがるかもしれんが……だったら一体じゃない筈だよな?


『はい……ゲートフラッグの……ところへ……お越し下さい』


 半分狐に(つま)まれたような思いでゲートフラッグが掛けてある――ヘゴ材にからませたものを壁に掛けるようにしてある――壁のところへ行ってゲートフラッグを覗き込むと……花の蔭から一匹のハエトリグモが()()ずと顔を出した。


 体長約五センチ。大事な事なので繰り返します。体長約五センチ(・・・・・・・)


 一般的なハエトリグモのサイズじゃない。見た感じシラヒゲハエトリに似てるけど、あれって確か体長は一センチ足らずだった筈だ。大体、世界最大級のタランチュラだって、足の長さを除けば十三センチくらいなんだぞ? ハエトリグモとしては規格外だわ。


『……ハイファ、何があったのか説明してもらえるか?』

『……推測に……なりますが……どうやら……ゲートフラッグの……蜜を吸って……モンスター化した……ようです』


 完全に想定外の事態であったため、確認が遅れたのだという。というか、ゲートフラッグから相談を受けて初めて気が付いたらしい。


『ゲートフラッグから相談ねぇ……』

『ゲートフラッグも……これが……普通なのかどうか……迷っていた……みたいです』


 それもそうか。ゲートフラッグにしてみれば、こっちの世界は異世界だからな。何が普通かなんて判らないだろう。そういう意味ではハイファも同じだ。俺が気付くべきだったんだよな。


『クモが花の蜜にやって来る事があるのは知っていたが……それだけじゃ餌が足りないんじゃないのか? そこまででかくなると』

『それが……そうでもないようです』


 ハイファの説明を聞いた俺は、そのややこしさに思わず頭を抱えた。


『つまり……ゲートフラッグにとってこちらの世界は異世界だから、世界を渡った際の(ひず)みによってレベルアップして、更にこちらの世界の水やなんかを吸収する事で益々レベルアップに拍車がかかる。生きるために必要な魔力はおれからの漏出分で充分足りていると』

『はい……』

『で、そこのハエトリグモにしてみればゲートフラッグは異世界の生物だから、それが分泌する花の蜜も異世界の食物という事になり、それを摂食する事でレベルアップを果たしたと』

『その……ようです』


 何だか詐欺みたいな話に聞こえるが、間違いは無い。何しろ……



【個体名】なし

【種族】フェイカーフラッグ

 異世界へ渡ったために変異したゲートフラッグ。異世界の水などを吸収する事で生じた歪みによって日々成長しており、ダンジョンマスターであるクロウの魔力を吸収して強い魔力を持つようになった。

【地位】ダンジョンモンスター クロウの従魔候補

【レベル】1

【スキル】木魔法 誘引



【個体名】なし

【種族】フェイカージャンパー

 異世界の食物を食べたために変異したシラヒゲハエトリ。本来の大きさの五倍近くまで育ったが、元になった種族が大きく育つ種類でないためダンジョンモンスターとしては小柄である。フェイカーフラッグの花蜜を日々吸収する事で強い魔力を持つようになった。

【地位】ダンジョンモンスター見習い クロウの従魔候補

【レベル】1

【スキル】風魔法 魔糸



 これだよ。マンションの俺の部屋は、とうとうダンジョンになったらしい。



 そのうち名前も付けてやらなくちゃな。

来年の更新は一月二日からになります。好いお年をお迎え下さい。

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