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第九十章 シュレク 2.怨毒の廃坑(その2)

『ご主人様……百鬼夜行とは……何ですか』

『まぁ、簡単に言えば……坑道の中の怨霊(ゴースト)魔物(モンスター)(あふ)れさせて、行列をなして周りを練り歩こうって事だ』

『スタンピードとは違うのですか?』

『この世界のスタンピードについては詳しく知らんが……今回は怨霊(ゴースト)魔物(モンスター)はシュレクの周りを脅かして廻るだけで、夜明けには引き上げさせるつもりだが? というか、それくらいで充分だろう?』


 俺がそう言うと、眷属たちはひそひそと話し始めたようだ。さて、どういう修正動議が出るかな?


『僭越ながら、閣下(マイ・ロード)、住民を怯えさせるには充分でしょうが、テオドラムの監視部隊を退()かせるには不充分かと』

 代表者はダバルか。


『いや、別に退()かせる必要はないだろう? ただ、怨毒の廃坑(ここ)が危険だという認識を持ってもらえればいいだけだ』

(おど)かすだけでは(かえ)って(あなど)られる可能性もあるかと』

 むぅ……否定はできんか……。


『実力行使をして見せねば駄目か? しかし……怨毒の廃坑は毒死者の怨念が籠もってダンジョン化したという設定だから……封鎖線を張っている兵士を襲うのは筋違いじゃないか?』

『あぁ……その設定がありましたか……』


 俺の指摘に、皆は再び考え込む。これは……当事者の意見を聞いた方がいいか?



・・・・・・・・



『地元の有力者……?』


 廃坑にいる怨霊たちに、祟りたい相手を一人選べといって多数決を採らせたら、選ばれたのは地元の有力者であるコーリーという男だった。元は冷酷な金貸しで、借金のカタに農地を取り上げ、それでも足りぬと言って元の持ち主を奴隷同然の薄給で()き使う事を繰り返してのし上がったのだという。貪欲で傲慢、残虐と、怨霊たちは口を極めて罵った。意に染まぬ相手に無実の罪を着せて奴隷に落とし、シュレクの鉱山に売り払って財をなしたというのだから、真実なら恨まれるに足る理由だろう。俺の配下にある怨霊たちは俺に対して嘘を()く事はできないから、出鱈目という事は無い筈だ。厳密な裁判なら他からの証言を聞く必要があるが、これは裁判なんかじゃない。単に獲物を選ぶための投票だ。同国人に憎まれていると言うだけで充分だろう。しかし問題がない(わけ)じゃない。


『生贄としては申し分無いかもしれんが……一介の田舎地主を殺したところで、軍部に対する牽制になるのか?』


 この質問には、怨霊の一人が答えてくれた。


『成る程……シュレクを封鎖している兵隊に食糧を届けているのか』

 それなら牽制にも使えるか。


『しかし閣下(マイ・ロード)、怨霊たちの情報によれば、食糧を届ける時には十人近い護衛が警護についているそうです』

『ここの怨霊や毒持ちのモンスターでは、逃がさずに捕獲するのは難しいのでは?』


 そうだな。怨霊を始めとする怨毒の廃坑(ここ)のモンスターは機動力に乏しいものがほとんどだ。廃坑から出てゆるゆると進んでいる間に、獲物はさっさと逃げてしまうだろう。かといって、他のダンジョンのモンスターを使う(わけ)にもいかん。


『ご主人様、我々の手で足止めを致しますか?』

『ふっ、安心しろ、皆の者。こんな事もあろうかと(・・・・・・・・・・)、密かに準備していたモンスターがいる。出でよ! グレータースケルトンワイバーン!』



 クロウの号令一下、怨毒の廃坑の広間に一頭のスケルトンワイバーンが姿を現した……黒光りする、通常の三倍以上の大きさのものが。



『……またしてもやらかしおったか……相変わらず()(ちょう)というものをせん男じゃ』



 小さな声でぼやいたのは精霊樹だけ。他の面々は呆けたように黙っている……いや、洞窟組の従魔たちは、目をキラキラと輝かせて見つめている。



『マスターっ! この子、どうしたんですか!?』

『あぁ、オドラントの一戦で得たワイバーンの屍体があったろう? 肉は食糧として配給して、皮とかは素材に使って、余った骨をどうするかと考えていてな。一部は素材に使ったんだが……何せ数が数だからな。少々の消費じゃ追いつかん。で、スケルトンワイバーンにでもするかと思ったんだが、そのままスケルトンにしても戦力としては微妙だろ? 大きくできないかな~と思って、試しに五体分くらいの骨を(まと)めてみたら、どういう(わけ)か上手くいってな』



 無言のまま(たたず)んでいるその姿は確かに普通のワイバーンより大きいが……



『あれ? でも、(ぬし)様、五倍ほどの大きさはないように見えますけど……』

『あぁ、残りの部分は骨の強化に使われたらしい』

『うわぁ……』

『飛べるの……ですか』

『問題ない。(むし)ろ普通のワイバーンより速いんじゃないか?』

『マスター、色が黒いのはなぜですか?』

『判らん。魔石を与えたらこの色になったんだが……闇魔法のせいかもな』



 凄い凄いと騒いでいる従魔たち――向こうでもモニターに映っている筈だ――を横目に、恐る恐るという感じで尋ねたのはハンクである。



『あの……ご主人様……それで、このグレータースケルトンワイバーンとやらは、何頭いるんですか(・・・・・・・・)?』



 ハンクの問いにギョッとしたようなダンジョンコアたちと精霊樹。ダバルは諦観の表情である。



『よくぞ聞いてくれた! 差し当たって五頭ほどを準備してある。これなら地主がどこにいようがひとっ飛びだ。空から襲えば、護衛に応戦の暇など無い。こいつで地主を馬車もろとも怨毒の廃坑(ここ)に運べば、どこのモンスターかは一目瞭然だ!』



 声も高らかに宣言するクロウに対して、ダバルが冷静な声で――というか平板な声で――確認する。



『魔法攻撃への対抗措置も考えてあるんですね?』

『当然だ。聖魔法こそ与えてないが、それ以外の属性魔力は全て付与した! 魔法耐性に関しては、それに加えて聖魔法への耐性も与えてある!』



 自信満々に言い切るクロウ。虚ろに見つめるダンジョンコアとアンデッドたち。ドン引いた様子の怨霊(ゴースト)たち。悟ったような表情のダバル。……そして大喜びの従魔たち。



 ……何はともあれ、準備は整ったようである。

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