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第九十章 シュレク 1.怨毒の廃坑(その1)

『クロウ様、テオドラムの国境の外側、シュレクを睨む位置に、モルヴァニアがら軍が派遣されたもようです』


 怨毒の廃坑を任せているダンジョンコア、オルフから通信が入った時、俺は洞窟で従魔たちと洞窟の改装案をあーでもないこーでもないと話し合っていた。


『モルヴァニア?』

 初めて聞く名前だな……


『ご主人様……モルヴァニアは……テオドラムの……隣国で……国境線をめぐっての……(いさか)いが……絶えないと聞いています』

 面倒事の予感がするな……


『オルフ、厄介事の臭いがするので、他のダンジョンコアたちとも回線を(つな)ぐ。そのまま少し待て……今(つな)いで大丈夫か?』

『はい、問題ありません』


 オルフから承諾を貰ったので、各地のダンジョンコアたちと、ついでに爺さまとヴィンシュタットのオーガスティン邸にも回線を(つな)いだ。


『……よし、いいぞ、オルフ。説明してくれ』


 哨戒部隊のゴーストが国境付近に出向いた時、モルヴァニア側に何やら軍勢らしきものが見えたので、気取られない程度に接近して探ってきたらしい。


 シュレクには――ケイブバットやケイブラットのように――偵察を任せられる小動物がいなかったので、探索役にはゴーストたちを起用してある。坑道の外に魔力補給用の魔石を設置したんだが、濃い瘴気に覆われて魔石の存在が判らないようなので、持ち去られる危険は小さい筈だ。ゴースト自体も強化してあるからな。姿を隠したまま国境を越えるくらいは確かにやれるだろう。


『何のためにやって来た? ……いや、やつらは何をしている?』

『井戸を掘っているみたいです』

 井戸?


『給水用に井戸を掘っているのか?』

『いえ、どういうわけか、あちこちに井戸を掘っているようです』


 そう言うと、オルフは確認された井戸の位置を地図上に表示した。なるほど……この配置を見ると……。


『明らかに水質調査を意図した配置だな。砒素汚染の状況を調べているんだろう』

『あれ? でも、マスター』

『地下水の汚染はアルセニックスライムで改善済みですよね? (ぬし)様』

『あぁ、そのとおりだ……これは少し(まず)いかもしれんな……』

『へ?』


 キーンが妙な声を上げたので、俺の懸念を説明しておく。


『いいか? 水質に問題無しという結果が出たら、モルヴァニアの兵士たちは井戸水を使って牧草か穀物を育て、家畜を飼う筈だ。健康に害が無いかどうかを確かめるためにな』

『ありそうな話じゃな』

『クロウ様、それのどこが(まず)いんですか』

『あの辺りは見晴らしの良い平地だったよな? モルヴァニア側が井戸水を使って穀物を栽培し家畜を飼っている様子は、シュレク近辺の住民にも見えるだろう』

『あ……』

『あっちゃぁ~』

 お? 気付いたやつもいるな?


『ダバルとギルは気付いたか? シュレクの住民たちはどう思うだろうな? 自分たちはダンジョンのせいで水も農地も手に入らないのに、モルヴァニアはその両者を享受している』

『あ……』

『うわぁ……』

『そのうち、水が使えるようになったのは、シュレクのダンジョンが鉱毒を吸い集めたからだという事に思い至るだろう。自分たちのところにあるダンジョンが浄化した水を、隣国の者が使い放題に使っている。他ならぬ自分たちは、ダンジョンのせいで農地を拡張できないのに』

『…………』

『生じた不平不満はどこに向かうだろうな?』



 う~むという感じで黙り込む一同。やがて沈黙を破ったのは精霊樹だった。



『無い、と言えぬところが厄介じゃのぅ』

『懸念が的中した時の厄介さはそれ以上だぞ? 国境を挟んで軍事力が(たい)()している場所に、妙な緊張を持ち込むのは避けたいんだよ』

『しかし、ご主人様、我らにとり得る手立てがございますか?』

『緊張の原因となっている両部隊は、俺たちにはどうにもできん。正確に言えば、どうにかするのは簡単だが――クリスマスシティーを動かせば一発だ――今それをやると収拾がつかなくなる』

『テオドラムだけではのぅて、周辺の国々を巻き込んでの大騒ぎになるのぅ。下手をすれば、いや間違いなく、大陸中が大混乱じゃ』

『だろう? だとすれば両部隊が揉める危険性を減らすしか無い』

『具体的……には……どうするの……ですか?』

『気は進まない……物凄く進まないんだが……シュレクの危険性を見せつけて、国境線への接近を忌避させるくらいしか、俺には思いつかない。……百鬼夜行でも起こすか』


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