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第八十七章 小麦とビール 4.クロウ陣営

『小麦が不足気味?』


 

 ホルンから通信の魔道具――クロウがしこたま渡した魔石によって量産されている――による連絡を受けたクロウは困惑した。


 五月祭におけるビールのお披露目に向けて、原料となる小麦を確保する必要がある、それは解る。だが、なぜこのタイミングで、小麦が不足気味だの値上がりしただのといった話が出てくるのか?



『ビールの件が漏れて、何者かが買い占めを?』



 真っ先にそれを疑ったクロウであったが、どうもそうではないらしい。



『テオドラムの小麦が敬遠されたのが原因か……』

『毒麦と毒鉱山の件が明るみに出て以来、あの国の農産物は敬遠されていますから』

『いや……毒麦はともかく、毒鉱山がどう関わってくるんだ?』

『毒鉱山から漏れ出た()(そう)の毒が水を汚染して、農産物まで毒に染まっているのではないかと疑われているのですよ』


 そうきたか……


『つまり、小麦はあるが流通していない状態なわけだな?』

『買い手の付かない小麦をして「ある」と言って良いのかどうかは判りませんが』


 これは予想外だったな。実存する量の不足ではなく、風評被害による取引量の減少か……。実生産量が減っているなら他の国が増産するかもしれんが、単なる取引量の減少なら、悪評が静まり次第取り引き量が回復する可能性がある。急いで増産に走ろうとする国は少ないだろう。となると……数年は不足気味の状態が続く可能性もあるな。


『ドランの村では何と言っているんだ?』

『五月祭の出荷分は確保しているそうです。それ以降はライ麦を使ってみると言っていました』


 なるほど、地球世界でもライ麦を使ったビールというのはあった。厳密な意味での代替原料にはならんかも知れんが、新商品の開拓で補おうというのか。


『悪くない考えだが……ライ麦の方は不足していないのか?』

『少なくともこの国(イラストリア)ではまだ余裕があるようです。ただ……どうせならホップを使った新しいタイプのエールを試してみたいそうで、我々の方にホップの供給を打診してきたのですが……』

『……迷いの森でもまだ量産がきついのか……購入する分はどうなんだ?』

『栽培している分ですが、安定した供給には今年一年はかかるそうです。購入する分については、気取られないように密かにという条件が付くと、一気に難度が跳ね上がるので……』


 ふむ。先日カイトに言われて取りかかったホップの増産は当たりだったか。


『ホップの方は、少しなら俺の方でも入手できる。とりあえず、前回渡したのと同じ程度の量は確保してある。ただし、まだ乾燥が充分でないぞ?』


 ホルンが言うにはそこまで切迫してはいないようだから、出来上がり次第に送ると言って安心させておいた。



 ……しかし、問題は小麦だな。



・・・・・・・・



「ご主人様が栽培するのは駄目なんスか?」

「いや……香り付けに使うだけのホップとは必要量が段違いだからな? いくら何でもダンジョン一つでそこまではできんし、そんな面倒な事をやる気もない」

「酒造りに使う分だけってのも駄目なんですかい?」


 バートの提案について、少しばかり考えてみる。


「……駄目だな。やはりオドラントにはそこまでの生産能力は無い。ビールの生産量は今後も増えて欲しいし、その増える分まで供給する事を考えたら、どうやっても生産能力が不足する」


「しかし、(いささ)勿体(もったい)()ぅございますな。折角テオドラムめを追い詰める取っ掛かりができたというのに」

「ふむ……スレイの言う事も解るが、下手に追い詰めて暴発されてもな」



 小麦については、この世界の住人に解決してもらうしかないだろうな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公の世界がいつの時代か分からないが、福島原発以降ならこういう事態を招くことは予測できたと思うのですが、 主人公の反応に違和感を感じます。
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