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第八十七章 小麦とビール 1.テオドラム王城

少し短いです。

 話は少し前に(さかのぼ)る。


 一月半ばの事、テオドラム王城内では国王が国務卿たちから好ましからざる報告を受けていた。



「小麦の売れ行きはまだ戻らぬと言うのか」

「はい、遺憾ながら今回の買い控えは更に長引く可能性がございます。毒麦の件がはっきりとした形で露見したのが(いと)うございました」

()(ぎょう)(せき)をしでかした者は既に処分したのであろう?」

「はい、さよう告知致しましたが、取引量は戻らぬままです。更に、シュレクでの()(そう)の件が悪評に追い討ちをかけているようでして……」

「むう……民の生活はどうなっておる?」

「食糧の生産高が落ちているわけではありませんし、価格は統制を受けています。日用品なども配給されておりますので、いまのところ大きな問題は」



 マンディーク商務卿の発言に、ラクスマン農務卿が続ける。



「ただ農民の一部は、小麦が思うように売れずに当てが外れた格好ですので、何らかの補償がないと不満に思うやもしれませぬ」



 農務卿の発言にファビク財務卿が嫌な顔をするが、彼とて何らかの救済措置が必要な事は理解している。予定外の出費ではあるが、小麦を国が買い上げて値崩れを防ぐしかないだろう。しかし、ここで彼は先日の商務卿との遣り取りを思い出す。



「マンディーク卿、だぶつき気味の小麦をエールに変える事はできまいか?」



 商務卿は考える。財務卿の発言は、(きた)る五月祭でのエールの消費を期待してのものだろう。人の集まる交易都市の近くにはエールの醸造所が造られており、その町でのエールの消費を支えている。だが、財務卿の言っているのは国内の都市ではなく、恐らくはイラストリア王国のサウランドやヴァザーリといった商都を考えているのだろう。多少距離はあるが、度数を強めにしてハーブを効かせれば、少しなら日持ちもする。運んだ先ですぐ飲まれるならば問題にはなるまい。

 どうせ小麦はあり余っているのだ。少々エール用に回したところで、小麦が不足する事などない。日持ちは格段に短くなるが、五月祭で消費する分に限れば、むしろ収益性は良くなる筈……。



「先日も同じような話をしたと思うが……問題はあるまい。ただし、五月祭で消費できる分に限らせてもらいたい」



 ファビク財務卿はほっとした様子で(うなず)くと、国王に向かって奏上する。



「陛下、小麦の一部を五月祭用のエールの増産に回す事をお許し願います」

「よかろう。だが、例年より多くの量を(かも)すというなら、()(ひつ)などの手配も忘れるでないぞ」

(ぎょ)()

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