第八十六章 ホップ再び 2.オドラント
さて、ホップをモンスター化する――もう自分を偽る事はしない。どうせ今回もモンスターになるに決まっているんだ――に当たって、地球からホップを持ち込むか、この世界にあるホップ――トゥバはハヴァと呼んでいたな――を使うかを決めなくてはならないが……既に手元にこちら産のホップ……ハヴァがあるしな。これをそのまま使ってみよう。地球のホームセンターなんかだと、雌花だけしか入手できない可能性が高いが、手元にある分は葉も茎もついてるしね。
雄株をどうするか考えたんだが、ビールに使うのは未受精の雌花だけで、地球世界でも雄株は極力栽培しないようにしてるから、今回は見送る事にした。有性生殖による繁殖が必要となったら、その時点で新たに生み出せばいい事だ。
オドラント試験場の新たな階層へ移動して、乾燥したホップ……ハヴァに死霊術を使用してみる。ちなみにこの階層は、こんな事もあろうかと考えて、予め農場用に準備しておいた一つだ。死霊術は問題なく発動し、枯れていたハヴァは青々とした苗木に生まれ変わった。
【種族】イモータルハヴァ
【地位】アンデッドに由来する新種の植物モンスター
【特徴】アンデッドとしての性質を保持しているため生物としての寿命が無く、無限に成長してゆく。その一方で有性生殖の能力は失われており、花は咲かせるが稔性を持たない。従って繁殖は栄養生殖のみ。
殺菌効果の高い芳香成分を産生する。葉を乾燥させたものは虫除けとしても利用できる。
あぁ、予想していましたとも。ちゃんとモンスターになってくれました。ダンジョンの外には出せないのが決定したな。まぁ、ホップの生産性は高いようだから、俺としては文句はない。現在あるのは一株だけだが、地球世界でもホップは確か挿し木で殖やしていた筈だから、こいつが大きく育てば株を増やす事もできるだろう。鑑定結果にも栄養生殖って書いてあるしな。イノームケインのように挿し木で増やした株がモンスターとしての性質を失っても、それはそれで普通のハヴァが増えるだけなので問題は無い。さて……こいつをどこで栽培するかだな。
新しい階層には何も植わっていないとはいえ、ど真ん中に植えるのも何だしな……四等分した区画の真ん中くらいでいいか。
『スレイ、ウィン、この辺りに植えようと思うから、土を馴染ませてくれ』
『はい』
『かしこまりました』
発根したばかりの小さな根がきちんと土に馴染んだのを確認してから、ライに水を出してもらう。
『はぁい、ますたぁ』
『マスター、肥料はあげなくていいんですか?』
『あぁ、根が生えたばかりだからな。もう少し大きくなってからでいいだろう』
・・・・・・・・
うん……次の日には差し渡し二メートル以上の株に育ってたよ。大きく育った株から枝を切り取って、挿し木で殖やした株もちゃんとモンスターだったよ。あぁ、判っていたともさ。
『……主様、肥料、どうします?』
『……毒を食らわば皿までだ、やろう』
挿し木株もちゃんと大きく育ちました。
『これでホップの供給は確保したってわけですね♪』
『……嬉しそうだな、カイト。しかし、ホップ供給の目処が立ったからといって、ビールが即座にできる訳じゃないのは知ってるだろう? 仮に今すぐ仕込んだとしても、できあがるまでに一ヵ月はかかるんだぞ。間違えるなよ』
『解ってますって。んじゃ、俺たちは小麦の手配をしときますんで』
……酒絡みだと自発的に動くんだよなぁ……。




