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第八十四章 ピット 3.結果

 その日の夜、テオドラム王城の一室で、国王と副官がピットへの遠征について検討していた。



「……やはり、失敗か」

「本隊はおろか監視役につけた者とも、今に至るも連絡が取れません。残念ながら……」



 答える副官の声も硬い。



「監視兵は本隊から充分な距離をとらせた筈だな?」

「は。百メートル以下に近づかぬよう厳命しました」

「という事は……ダンジョンの警戒範囲が広いのか……あるいは……」

「……監視役の存在に気が付いたか。どちらにしても厄介な相手です」

「魔石は無論、ダンジョンの情報も得られないままか……ランクの高い冒険者を送り込む事は難しいか?」

「それなんですが……冒険者ギルドがピットのダンジョンを『非推奨』に指定しました。事実上の接触禁止(アンタッチャブル)指定です」

「なんだと! ……理由は?」

「現時点ではランク判定のための情報が少なく、無理な攻略は危険、というのが公式見解です。ついでに言いますと、シュレクのダンジョンも同じ指定を受けました」

「……取り消させる事はできんのか?」

「現状では難しいですね。ニルからイラストリアへ至る交易路の護衛も『非推奨』扱いにしようとしていたのを、商業ギルドと協力して、なんとか取り下げさせたような状況です」

「しかし……討伐や狩りは無理だとしても、警戒範囲などの情報がないままでは、『回復』計画に支障が出るぞ」

「どのみち同じ手は使えません。あの侵攻ルートは諦めるしかないでしょう」



 国王は深い溜息を一つ()くと立ち上がり、部屋の隅から酒瓶一本とグラス二個を持って来た。黙ってグラスに酒を注ぐと、そのうちの一個を副官に渡し、残ったグラスをぐいと傾ける。副官はグラスを手に取ると、片手で掲げて謝意を示し、これまた勢いよく中身を(あお)る。



「……やる事なす事上手くいかんな。()は国王の器でないと言わんばかりだ」



 友人(・・)の前で弱音を吐いた国王を力づけるように、副官がその肩に手を置く。



陛下(ハリク)、陛下はお疲れのあまり気弱になっておいでです。今宵はごゆるりとお(やす)み下さい」



 口調はともかく、肩に置かれた手は間違いなく幼馴染みの友人のものであった。国王――幼名ハリク――は苦笑いをして顔を上げ、グラスの残りを一気に(あお)る。



「そうしたいのは山々だが、サボってばかりもいられん。区切りのいいところまでは片付けておきたい。それにしても……ピットのダンジョンについて全く判らんのは(まず)いな……」



 そう呟く国王に、腹心が薄い紙束を手渡した。



「イラストリアとマナステラのダンジョンについて、冒険者ギルドが握っている情報を(まと)めたものです。ご参考程度にはなろうかと」



 渡された紙束に国王が目を通していく。



「ふむ……こうしてみると、ピットのダンジョンはさほど危険なように見えんのだが……」

「ここ一年足らずの間に脅威度が変化したそうです。この一年間とそれ以前で分けて集計したものがこちらです」

「なるほど……生還率が著しく下がって……というか、ほとんど無いな」

「はい。しかもモンスターがダンジョンの外にまで現れて攻撃してきます。冒険者ギルドの連中によれば、これほど殺意の高いダンジョンは聞いた事が無いそうです」

「ふむ……シュレクのダンジョンはどうなっているのだ?」

「あそこはまだできたばかりで、脅威度が未確定なようですね。ただ、瘴気と毒気が充満していますから危険なのは間違いないそうです。それと……恥ずかしながら以前に申し上げた件を撤回する羽目になりそうです」

「む? 何の事だ?」

「シュレクで通信の魔道具が阻害された件です。何者かが意図的に通信を妨害したと思っていましたが、瘴気に充ちた場所では魔力が上手く通らない事がままあるそうです。通信の魔道具は使用する魔力も小さいですから……」

「充満する瘴気のせいで正常に作動しなかった可能性がある……か」

「申しわけありません」

「なに。侮って痛い目を見るよりはずっといい。それに……肝心のピットのダンジョンでは、通信阻害があったのは間違いないのだろう?」

「偶然にしてはでき過ぎていますから」



 話している間も国王は紙束から目を離さずに読み(ふけ)っている。いい気分転換になったようだと、内心で安堵する副官。陛下もたまには気晴らしが必要だ。



「おい……ピットに勝るとも劣らぬ危険なダンジョンがあるぞ。それも二つ」

「あれほど凶暴なダンジョンが他にありましたか?」

「ああ。幸いにして遠く……イラストリアの北部にある。『(かえ)らずの迷宮』に『(りゅう)()の迷宮』と言うそうだ」


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