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第八十三章 テオドラムの軍備 5.テオドラム軍備レポート

 テオドラム軍の兵備について一通り説明を聞き終えたクロウは、テオドラム兵のアンデッドたちを見回して告げた。



「さて、お前たちにやってもらいたい事がある。テオドラム軍についてのレポートの作成だ」



 クロウはそこで言葉を切って新参のアンデッドたちを見回す。



「その前に確認しておきたいが、お前たち、文字は書けるのだよな?」



 この世界の識字率についての知識がなかったため、クロウは素直に軍人たちに質問した。指揮官たちは当然という顔で(うなず)いたが、兵士の一部が困ったような顔をしたのは、やはり庶民の識字率は必ずしも高くないという事なんだろう。そして、もう一つ確認しておかなくてはなくてはならない事がある。



「テオドラムで使われている文字だが、イラストリアのそれと同じものか? 別の聞き方をすると、お前たちが書いたレポートをイラストリアの民は問題なく読めるか?」



 クロウの問いには侵攻軍の指揮官が代表して答えた。



「読める筈です。以前にイラストリアへ行った時、読み書きに不便は感じませんでしたから」

「よし。それでは、今からいう内容についてレポートを(まと)めてくれ。書式は共通でな。まずはテオドラム軍の兵備についてまとめてくれ。それと、新兵器やテオドラム固有の装備と思われるものについては、二、三行程度で簡潔な要約を別に(まと)めてくれ。これは最優先で頼む。多分、さっき説明してもらった内容が中心になるんじゃないかと思うがな」

「要約の方が優先なのですね?」

「ああ、そうだ。詳しいやつは後で構わん。それらが終わったら、テオドラム軍について基本的な事を説明して欲しい。部隊の編制や配備状況、指揮系統、軍に関係する組織、などだ」

「我々はヴィンシュタットに配備された『龍』連隊の所属だったので、他の連隊については確言できかねますが?」

「判っている範囲で構わん」



 こうして、クロウはテオドラム軍について、基本的な知識からかなり突っ込んだ内容まで、様々な情報を得る事に成功した。



・・・・・・・・



 ホルン・トゥバ・ダイムの三人――クロウ曰く、亜人(ノンヒューム)連絡会議設立準備委員会――は、クロウからもたらされた数部のレポートを見ながら頭を抱えていた。



「……一体、どこからこんな内容を聞き込んだやら……」

「……その話は後だ。まずはこの情報をどうするか。……できれば全員に周知させたいところだが……」

「知る者が増えると、情報はそれに応じて漏れやすくなる、か。確かに、ふとしたはずみで漏れる可能性が無いとは言えん」

「……一旦それぞれの里に持ち帰って、長たちの意向を確認するか?」



 トゥバの(じゅん)(とう)()(ごく)な提案は、しかしダイムによって切って捨てられる。



「俺たちに一任する、って丸投げされる気がしねぇか?」

「……多分そうなるだろうな。しかし一応、形ばかりでも長たちに(はか)らんわけにはいかんだろう」



 疲れたような声で、そうホルンが応じた。



「じゃぁ、どうせ丸投げされるのを覚悟の上で、草案だけでも(まと)めておくか」

「……だな。まず、各村落の長たちには報せておくべきだろう。情報が漏れた場合の問題点もきっちり説明した上でな」

「問題は人間たちか……」

「イラストリアの王家には伝えて欲しいと(おっしゃ)っていたが……」

「俺も同意見だな。ここの王家には奴隷となっていた同胞を解放してもらった借りがある」

「まぁ、実際にテオドラムと当たる可能性が一番高いしな。報せておくべきだろう。学院にいるエルフを通せば問題無い筈だ」

「他の国はどうする?」

「テオドラムと揉めそうな国にはそれとなく流した方がよかぁねぇか?」

「とすると……マーカスにモルヴァニアか」

「あとはマナステラくらいだろう」

「だが……マナステラはともかく、マーカスやモルヴァニアの人間に伝手(つて)はあるのか?」

「セルマインに任せてみてはどうかと思うんだが……」

「セルマイン? ……あぁ、マナステラのエルフの商人か」

「あぁ。あいつなら使えそうな伝手の一つや二つあるだろう」

「だったら、砂糖の販売ルートの件もやつに任せるか?」

「そうして悪い理由は無いな」

「んじゃ。そういう事で」



・・・・・・・・



 学院のエルフを介して届けられたレポートを前に、イラストリア王国の重鎮四人組も頭を抱え込んでいた。



「テオドラムの軍事情報ですか……」

「機密もんの情報だな。宰相殿、どっからこんなヤバいネタを拾ってきたんで?」



 ローバー将軍の問いに、宰相は力無く答えた。



「学院にいるエルフの研究者が届けてくれた。同胞よりと言うてな」

「同胞……って、エルフですかい? 何でまた連中が?」

「解らぬ。どうやらそれ以上の事は、(ことづ)かったエルフも知らんようでな」

「問題は内容です。真偽を確かめる方法は今のところありませんから、一応ここに書かれている内容を真実と見て対応すべきでしょうが……」

「結構剣呑(けんのん)な内容だよな」

「ええ、この内容どおりなら、テオドラムの侵攻がなされていた場合、我が軍もかなりな被害を(こうむ)ったと思います」

「魔石の(たま)を飛ばす攻城兵器か……」

「対騎兵戦術も侮れませぬ」

「テオドラム軍の遠距離攻撃には注意した方がよさそうだな……」

セルマインは古株のエルフの商人で、第七十一章第五話に登場したゼムはその仲間です。

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