第八十三章 テオドラムの軍備 3.携行兵器
次いでクロウがやって来たのは、弓隊を指揮する士官のところだった。弓兵の数が思っていたのより多い事が気になっていたためである。
「弓兵の規模が大きいようだが……これは一般的な編制なのか?」
「いえ、テオドラム軍では魔術兵が少ない分、弓兵の数を増やしています。他国と較べても数が多いかと」
なるほどね……。
「長弓とクロスボウという両極端な兵装になっているのもそのためか?」
「はい。基本的に長弓で遠距離から攻撃し、接近した兵はクロスボウで始末するようにしています。クロスボウは装填に時間がかかるので、人数も多めに。装填手という役目の兵をつくるという案もあったのですが、装填手が殺された場合に射撃速度が落ちる事、射手が殺された場合に装填手が遊兵化する事などを考えると、人手の無駄遣いだという意見が大きく、立ち消えになりました」
まぁ……そうだろうな。
「矢の種類は? 通常の矢だけか?」
「いえ。長弓兵は各自十本の火矢を携行しております」
「十本……多いのか?」
「他国の弓兵が火矢を常時携行しているとは聞きませんので、多い方でしょう」
「クロスボウは火矢を撃たないのだな?」
「はい。ただ、今回の遠征では試験的に特殊な矢を持たされておりました」
これですと言いながら弓隊指揮官が持ち出したボルト――クロスボウ専用の矢――の先には、鏃の代わりに魔石が付けられていた。
「クロスボウなら大概の鎧は貫通できますが、それが効かないような相手――強固な鎧を着込んでいるか、モンスターなど――が出た場合、試して欲しいと言われておりました」
「ふむ。投石機用の魔石弾のクロスボウ版か……試射は?」
「やっておりません。投網弾と同様に、これもギリギリになって持ち込まれたもので。ただ、鎧を三枚重ねにしたものに穴をあけたとは聞いております」
「ほう……侮れない威力だな」
「はい。ただ、貫通力は上がっても、ドラゴンのような大形の魔獣にどれほど効果があるかは判りません」
「それでも、対人戦には効果的、か」
次いでクロウが目を向けたのは、長い縄のようなものだった。ただの縄だと思っていたのが弓兵の機材であったと知り、クロウは好奇心を駆り立てられた。
「これは? ただの縄ではないのか?」
「は。これも開発本部が持ち込んだもので、火縄といいます」
火縄?
「どう使うものだ?」
「要するに、油を染み込ませた縄ですが、中に針金の芯が入っているそうです。これを結びつけた矢を立木などに放って、ぴんと張った火縄に火を放てば……」
「なるほど。燃える縄で阻止線を敷こうというわけか。騎兵の突撃対策だな」
「はい。単純に地上に伸ばしただけでも火の帯を作れますから、これは有効だろうと考えられておりました」
確かにこれは名案だ。俺たちも早速採用するとしよう。
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歩兵部隊指揮官の許へ向かったクロウは、以前から気にかかっていた事、すなわちテオドラム兵の剣について質問した。
「あ、はい。確かに剣については、以前のものより傷みやすくなったという意見が古参兵から出されておりました」
「それが問題にならなかったのか?」
「はい。各人に剣が配給されるだけでも助かりますし、傷んだ剣はすぐに回収されて、新しい剣に替えてもらえますから。寧ろ以前より闘いやすくなったと、兵どもにも好評です」
「今回の遠征では、その辺りはどうなっている?」
「詳しい事は輜重の連中にお聞き下さればと思いますが、交換用の剣が準備してあるとは聞いております。訓練での痛み具合から、どの程度の剣を準備すればよいのかを割り出したとかで」
なるほどな。テオドラム軍もそれなりに考えているわけか。
「鍛冶師が同行しているとかは?」
「聞いておりません」
輜重部隊に確認する必要があるな。




