第八十三章 テオドラムの軍備 1.攻城兵器
去年の秋にオドラントで殲滅したテオドラム軍二個大隊。その装備品や軍需物資をオドラントのダンジョン内に回収してから放ったらかしにしていたが、そろそろ限界だろう。面倒ではあるが、テオドラムの軍備について分析する必要がある。整理のための人出には当てがある……いや、あった。まともな形を留めている屍体をアンデッド化して働かせようと考えていたんだよ――アンデッド化する手間を計算に入れずにな。
上級指揮官っぽいのだけで約二十名。各々の指揮する兵士を一個分隊十名ずつ。兵士だけで二百名になる。俺の心を折るには充分だった。とりあえずこの二百名に命じて、軍装品や物資を兵科別に仕分けさせた。それだけで二日かかったけどな。
回収した直後に保存の魔法をかけておいたから、品質は元のままに保たれている――壊れているものも多かったが。食糧などは後回しにするとして、まずは兵器の類を調べていこう。担当兵科の指揮官に説明させればいいんだから、楽なもんだ。まずは大物から始めるか。
「これは投石機――カタパルトとかマンゴネルとかいうやつか?」
根本を固定した特大のスプーンを、これも特大の弓と組み合わせたような兵器を前にしたクロウの問いに、侵攻部隊二個大隊を率いていた先任の大隊長は、やや首を傾げて答える。
「カタ……? 我々は投弾機と呼んでいましたが」
地球世界の中世に活躍した投石機――カタパルトとかマンゴネルとか呼ばれていたもの――と同じコンセプトで創られたようで、外見的にもほぼ同一である。仰角は四十五度まで変える事ができるようだが、それより上には向けられない。つまり、対空戦闘については考慮していないようだった。
「弾丸は? 適当な石を探してくるのか?」
「それでも構いませんが、専用の特殊弾も用意してあります」
そう言って投弾機担当の指揮官から見せられたのは、属性魔石を用いた砲弾。なるほど。冒険者が持っていた目眩まし用の魔石と同じ発想だな。さしずめ火の魔石は焼夷弾で、風の魔石は爆風による吹き飛ばしを狙ったものか。攪乱効果を期待した闇の魔石は……無いのか?
「必要な魔石が得られず、企画倒れになったと聞きました」
あ……そうなのか。……まぁ、着想としては月並みだが、実用化された現物があるのは参考になる。クレヴァスの二十センチ砲の砲弾を開発する上で参考になるかもしれんから、後でじっくりと見せてもらおう。……うん?
「あれは何だ? 砲弾に縄か何かが絡まっているようだが……?」
「あ、はい。あれは出発間際になって開発本部が持ち込んだものです。何でも二機の投弾機を使って網を飛ばすのだとか……」
何!? そのトンデモ兵器!
「……実戦で使えるのか?」
「どうでしょうか。一応開発本部の方で試射はした筈ですが……」
うむ。判らんなら試すしかないだろう。
周辺に誰もいない事を確認した上で、クロウたちは問題の投網弾と投弾機を地上に展開し、試射を行なった。その結果、胡散臭い見かけにも拘わらず、投網弾はちゃんと予定どおりの効果を発揮した。ただし……
「射線を完全に平行にしておかないと、綺麗に網が展開しませんな」
「使いどころが難しいな。本陣に待機している兵士にぶち当てても、嫌がらせにしかならん。こっちへ進撃中の兵士を絡め取れないと意味がないが……」
「狙いどおりの位置に落とせなければ、敵味方双方の笑いものですな」
「着弾距離を正確に測定した射表が無ければ使えませんね」
「上手く狙いどおりの位置に落とせても、突撃を阻止すると言うには網の規模が小さいような……」
「開発本部のやつらは頭でっかちだから……」
「使えねぇ兵器で迷惑引っ被るなぁ俺たちなんだぞ……」
「いや……騎兵には案外効果的じゃないか? 地上に落ちてべたっと広がった網の上を走ったら、馬が足を取られたりしないか?」
「あぁ……その可能性はありますか……」
「可能性があるというだけで、騎兵の突進を妨げる効果は期待できるかも……」
……うん。網の代わりに鉄条網みたいなものを敵の前に展開できたら面白いかもしれんな。これは要検討案件だ。




