挿 話 従魔たちの魔法訓練
今回は挿話です。
『さて、シルヴァの森、バレンと実戦を経験してみると、やはりいくつか改良すべき点が見えてきた。今回はそれについて討議したいと思う』
眷属たち――洞窟組とクレヴァス組――を見回して、俺はそう切り出した。
『どちらの作戦も……首尾良く……成功したように……聞きましたが?』
『あぁ、作戦としてはこれ以上ないくらい成功した。その点は間違いない』
『あれっ? じゃぁ、僕、どこが悪かったんですか? マスター』
『お教え下さい、ご主人様。至らぬ点があれば改めますゆえ』
みんなが沈痛な面持ちでわぃわぃと騒ぎ出したので、俺は言ってやる。
『静まれ。悪いと言うんじゃなく、より良くするための話し合いだ。具体的に言うと、魔法の射出位置についてだ』
そう言うと、みんな戸惑ったような様子を見せた。
『マスター、魔法の射出位置って、どういう事ですか?』
『あぁ、キーン、お前の例が解りやすいな。お前、どこから火を吹いた?』
『えっ? どこって……口からですけど……』
『それだ。魔法で火を生み出しているわけだから、別に自分の口の前に出す必要はないだろう?』
『ますたぁ、ではぁ、どこから出せばぁ、いいんですかぁ?』
『離れた位置からだ。馬鹿正直に目の前に出したんじゃ、自分の位置をバラすようなもんだ。折角隠れているのにそれはないだろう。身の安全を考えると、こちらの位置を気取られないままぶっ放すのが最高だな』
『相手の近くから……打ち出すほど……避けにくく……威力も落ちません』
『あぁ、そういう利点もあるが、何よりお前たちの安全が第一だ。とにかくまずは、そんな事ができるかどうかだ。試してみてくれないか?』
単に自分の口の先や指先に出すのと違って、属性魔力の塊を離れた場所に出現させるには、出現位置を明確に指定する必要がある。ターゲットとの距離を把握するのは不可欠だ。空間認識の能力の如何が鍵になる。そういう事を説明すると、みんな一所懸命に練習し始めた。
この洞窟も一本道だった以前とは違い、下に広い階層を追加してある。安全保障の観点から、新たに拡張した階層を通過しないとマンションへのゲートに辿り着けないように、内部の構造を変更した。ま、俺はダンジョン内転移で簡単に移動できるけどね。新たに追加した階層は充分に広いし、多少火を吹いところで危険はない筈だが……。
『あまり熱くなるなよ。いくらダンジョン内でも、でっかい火球をぶっ放すと危ないからな』
『ご主人様……どうにか……やれそうです』
『うん? ハイファか? やってみてくれ。お前ら、一旦練習を中止しろ!』
ハイファは土魔法を使ってみると言う。ハイファ本体が洞窟の壁を広く覆っているだけに、どこから打ち出すのが見当もつかない。他の連中の練習を中止させて正解だったな。紛らわしい。
注視している――いや、どこをってわけじゃないけどね――と魔法の気配を感じたと思うやいなや、俺の眼前に土の球が出現した。
『おおっ! 凄いなハイファ! 上手くやったじゃないか!』
『恐縮……です……でも……私は洞窟全体に……広がっているので……射出位置を隠せたかどうか……確認……できなかったのでは?』
『うむ。しかし、魔法の気配は目の前からしたような気がするが……そもそも魔法の気配だけで、位置を確認できるのか?』
『大雑把な方向なら……判ります……近くだと……却って……判りにくいかもしれません』
『うむ、他に誰か、やってみようという者は?』
『はいっ。キーン、いっきまーす』
『うむ。どこでそういうネタを仕込んでくるのか解らんが……キーンか。張り切るのはいいが、あまり大きな火球を出すんじゃないぞ』
そう注意して見守っていると、今度も俺の眼前に火の玉が出現した。キーンとは十メートルぐらい離れた位置だ。しかし、出現位置が俺の目の前ってデフォルトなのか? おっかないから止めて欲しいんだが。
『ご主人様……魔法の気配は……ご主人様の……目の前からしました』
『あぁ、俺にもそう感じた。しかしこれはおっかないな。この程度の大きさでも牽制には充分以上だ。出現位置から勢いよく打ち出す事は……あぁ、ブレスのような感じだ、できるか? ……俺の目の前に出すなよ?』
注文を受けたキーンは、誰もいない方向に向かって虚空からブレスを打ち出して見せた。
『面白いな、これ』
『主様、でも、これってどういう意味が? 目の前に直接出してやれば充分なんじゃ?』
『いやな。目の前に出現した火球が他の敵にフレンドリーファイアをかましたらだな、そいつが裏切ったようにみえないか?』
『うわぁ……主様が黒い……』
いいんだよ。戦争なんて綺麗事じゃないんだ。敵の攪乱は常套戦術だろ?
幾ばくかの練習の末に、うちの子たちは新しい魔法技術を習得した。みんな結構空間認識の能力が高いのね。へこむ事に、俺の方はいまだに射出系の魔法が使えない。偉そうに説教しておいてこのざまだよ。
『ご主人様、ご主人様をお守りするために儂らがおるのです』
『そうですよー、主様。私たちがお守りします』
『ますたぁにはぁ、誰にもぉ、真似できなぃ、ダンジョンマジックがぁ、あるでしょぅ?』
『そうそう、あの反則技みたいなの。あれって最凶じゃないですか』
キーン……最「強」の字が違っていたように聞こえたんだが、気のせいか?
明日は第九章に入ります。クロウたちの被害者の視点になります。




