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第八十一章 テオドラム 4.テオドラム王城

「……つまり、対魔獣戦の戦術や装備どころか、町や村の防衛設備の不足が明らかになったという事か……」

「はい。シュレクのダンジョンに近い町や村は勿論の事、二個大隊を(ほふ)った魔獣の所在が不明な以上、少なくとも主だった町の防衛設備は強化する必要があるかと」

「……どこの村でも柵程度のものは造っていた筈ではなかったのか?」

「獣避け程度のものです。二個大隊を消し去る魔獣は無論、スタンピードから守るには(こころ)(もと)無い……というか、お寒い限りのものばかりです」

「ふむ……これまで戦備を整えるのに国力を費やしてきたが……確かに国民を守るための防壁が(おろそ)かになっていた事は否定できんな……。いいだろう、国威回復の機会はこの先にもある筈。今は守りを固めよう」

「はっ。民に成り代わり、ご英断に感謝いたします」



 ほっとした様子の軍務卿・内務卿とは対照的に、王国の財政をあずかる財務卿は渋い表情を隠さない。主な町や村に限っても、塀や柵を造るための臨時予算は膨大なものになる。しかも、可及的速やかにという但し書きが付くとなれば、押し付けられるであろう仕事の量は考えたくもない規模に膨らむのは確実だ。


 ……いや、それ以前の問題として、資金をどこから持ってくる?



・・・・・・・・



 執務室に引き取ったファビク財務卿は、不機嫌を隠そうともしなかった。数ヶ月にわたる予算案の編成、折衝と調整の結果をふいにする羽目になって、上機嫌でいられる筈も無い。大体、三桁に届こうかという町や村に塀や柵を建設する――しかも可能な限り速く――ための予算など、どこから(ひね)り出せと言うのだ。



(……金策が必要だ。計画外の出費は計画外の収入で(まかな)うのが筋というものだろう)



 しばし黙して考えていたが、結局の所、ごく()()たりな結論に達する財務卿。不足する資金はどこからか持ってくるより他はない。



(いっその事、ピットとやらでモンスターでも狩るか。……だが、所詮(しょせん)は焼け石に水だろう。となると、やはり砂糖の増産か? 下手に流通を増やすと、砂糖の価値を下げる事になりかねないが、背に腹は代えられぬ。当面は備蓄分で(まかな)うとしても、消費した備蓄分を補うためにも、次年度分の増産は必要だろう。畑の拡張も視野に入れねばなるまい……農務卿・商務卿とも相談せねば)



 余計な手間が増えた事に苛立つ財務卿。内務卿か軍務卿が早い時点で居住地の防衛を見直していれば問題なかったのにと、彼らの怠慢を恨めしく思う。今になって一気に防衛設備を上げるとなると、必要な木材その他の量は膨大になる。いや、そもそも必要分を(まかな)えるのか?



(……こういう時、市場価格や流通量の情報を速やかに得る事ができれば色々と便利なのだが……現在の情報部は軍事情報偏重のきらいがある。軍務卿の指揮下にあるのだから無理もないが……商業や流通に関する情報が不足しておるのは事実)



 産業関連の情報入手に関して思いを馳せた事が引き金となって、普段から不満に思っている事とその改善策を上奏する好機ではないかと思い至る財務卿。



(ふむ……産業情報専門の調査部局の設立を、陛下に奏上してみるか。商務卿、農務卿辺りを巻き込んで……)



「余計な面倒を負わされるのだからな。これくらい望んだところで、(ばち)は当たるまいよ」



 誰もいない執務室の中で、ファビク財務卿は我知らず口に出していた。

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