第八章 バレン男爵領 1.攪乱(かくらん)
クロウがバレン男爵領に乗り込んで追い討ちをかけます。流血ではなく混乱を狙います。
一応男爵の兵隊は潰したが、ゴキブリみたいな貴族らしいから、このまま放っておくとまたぞろ復活して、余計な事をしでかしかねない。ここは順当に追い討ちをかけて、クソ男爵を追い詰めておこう。
と、言う事で、やって来ましたバレンの町。一応、男爵領の領都らしい。今回の随行はキーン率いるスキンク部隊、火魔法使いで揃えてみました。ここまでの移動は飛行魔法。その日のうちにバレンに着いた。いや~便利だ、これ。
『それで、今回僕たちは何をするんですか? マスター』
『あぁ、済まんが今回はちょっと危険な任務を頼みたい』
領主軍の第二中隊が派手な同士討ちをやらかしてるのを見てから、これ、使えるんじゃね? と思ってしまったのだ。狙っているのはテロ活動。どうせこの町はクソ男爵と一蓮托生、ヤルタ教を信奉して亜人迫害やら奴隷狩りやらの先棒を担いできた連中だ。同情も配慮も無用。
とは言え、実際の被害よりも、領主である男爵への不信感を煽るのが主な目的だ。ターゲットについては既にエルフたちが調べ上げていた。クソ男爵に余計な贅沢品を売りつけて財政圧迫の原因となったクソ商人が二名、護符とやらを売りつけてエルフ討伐をそそのかしたクソ教会、エルフを狙ってこの町にやって来た奴隷商人が一名、そして本命のクソ男爵。
『今回は騒ぎを起こすのだけが目的だ。だからパニック誘発の効果を高めるため、深夜に放火する。焼失による被害よりも、騒ぎを起こすのが目的だから、小火で構わんからあちこちに起こせ。くれぐれも、お前たちが犯人だと気づかれないように注意しろ。もしスキンクが犯人だと疑われたら、最悪、無関係なスキンクが大量に殺されるぞ』
小火を起こすだけなら、大きな火は必要ない。燃えやすいものがある場所に、小さな火種を蒔いてゆけばいい。人影がない場所は警戒も薄い筈だ。
『混乱を最大限に盛り上げるため、決行はほぼ同時とする。俺が念話で合図したら、一斉に始めろ』
バレンの町に潜入して以来、あちらこちらと放火の適所を探し回ったんだが、木の塀、木の壁、倉庫、など、トカゲ一匹忍び込む場所には不自由しなかった。
『キーンは俺と一緒にクソ男爵をやる。少々痛い目を見てもらわんとな』
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領主館にやって来たんだが、この阿呆貴族、警戒心ってものがないのか?
シルヴァの森の騒ぎの直後というのに、屋敷の前に歩哨も立てていない。傲慢なのか馬鹿なのか……あ、いや、扉に例の護符が打ちつけてあるな。霊験あらたかだと本気で信じてるのか、これ。
『……キーン、思った以上に馬鹿みたいだから、ごちゃごちゃやらんで一気に領主館をダンジョン化して侵入する。そのまま殺してもいいんだが、後釜に誰が居座るか判らんからな。下手に小知恵の回るやつより、クソだが扱いやすい馬鹿の方が俺たちには都合がいい。とにかくダンジョン化したら中の連中を眠らせる。領主の部屋の外と、あと適当に火を放って脱出する。脱出後は証拠隠滅のためにすぐにダンジョン化を解除するから、逃げ遅れるな』
『はーい、マスター。僕、頑張ります!』
『うむ、では、ダンジョン化開始!』
うまくいくのか半信半疑の所もあったが、あっさりダンジョン化に成功して内部に侵入。領主の部屋と、ついでに階段の絨毯と穀物倉に火を放ち、火が消えていないのを確認して脱出。不要となったダンジョン化を解除した時点で、睡眠魔法も解除になる。所要時間は五分ほど。やる事が終わった時点で、待機している他のスキンクたちに作戦実行の念話を送った。
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俺たちの深夜テロは大成功に終わった。以下は後日に聞き込んだ話。
領主館の階段を燃え上がった火は順調に延焼し、穀物倉では本年度分の小麦が焼失、おまけに粉塵爆発まで起きて、付近住民の不安を煽った。クソ男爵は呆れた事に爆発が起きるまで気づかずに眠り続け、起きた時には戸の外は火の海で逃げられず、窓から飛び降りて足の骨を折ったらしい。
クソ教会に行ったスキンクは、人がいる場所には目もくれず、木造の礼拝堂の内部に火を放った。作戦目的をよく解ってるな、こいつ。気づくのが遅れるようにと礼拝堂の外側には火を放っておらず、念の入った事に床下にも火を放ったので、消火が追いつかずに焼失したらしい。
御用商人の屋敷を襲った二匹はどちらも倉に火を放ったが、それだけでなく倉の周りや、屋敷から倉へ向かう道のあちこちに火を放った。おかげで消火しようにも倉に近づく事ができず、綺麗さっぱり焼け落ちたらしい。
無茶をやったのは奴隷商人のところへ行ったやつだ。なんと宿屋の壁を登って二階の奴隷商人の部屋に忍び込み、布団に火を着けて帰ってきたらしい。意外に気づかないもんだと笑っていた。あ、奴隷商人本人は火傷をしたものの、領主同様に窓から飛び出して逃げ出せたらしい。こっちは足は折らなかったようだ。
同時多発の放火のせいで町中が大騒ぎ。半ばパニックに陥った警備隊が手近な住民を片端から引っ張ったため住民たちと衝突、普段から恨まれていた御用商人に至っては、ドサクサ紛れの火事場泥棒や暴行に遭って酷い目を見たらしい。奴隷商人が泊まっていた宿屋では、火に怯えた馬たちが逃げ出して騒ぎが拡大、パニックになった宿泊客も怪我や火事場ドロの被害に遭った。生き残った奴隷商人に対して、宿屋は火の不始末による失火を言い立てて弁済を要求。身に覚えのない奴隷商人は抵抗しているが、出火元が奴隷商人の部屋なのは確かなため、弁償させられる公算が強いという。放火と判って請求してるんだろうから、宿屋側も悪質だな。
住民に被害が及んだ事に対しては少々心が痛むが、この町の住民はヤルタ教の信者で、これまでずっと亜人迫害の片棒を担いできたらしいからな。ここらで負債を払ってもらおう。負債はまだまだ貯まっているしな。
さて、次だ。
この話はフィクションです。作者はテロ行為を容認するものではありません。




