第七十八章 砂糖 2.異世界甘味事情
少し短めです。
早速味見をしてみたんだが……思った通り雑味が多いな。黒砂糖はまあ想定内だが、一応は精製してあるらしい砂糖の方も夾雑物が多い。糖蜜の分離が不完全なようだし、青臭いエグ味が残っている。鑑定結果でも間違いないな……こいつは甜菜糖、別名をビート糖というやつだろう。
「テオドラムはビートを栽培しているのか?」
そう聞くと、一同不思議そうに顔を見合わせる。……俺、変な事を言ったか?
「あの……ご主人様、ビートって何ですか?」
「ビートを知らんのか? まさか……テオドラムは製糖原料を公開してないのか?」
「砂糖の原料の事でしたら、厳重に秘匿してありますね」
「下手に探ろうとしたら命が幾つあっても足りねぇって話ですぜ」
「……俺、原料から製法まで見当が付いたんだが……」
「……口を噤んでおかれた方がよろしいかと……」
まぁいいか。原料と製法の見当が付いたお蔭で、どうにかテオドラムを出し抜く算段もできた。そう考えていると、料理人のアンナがこわごわという感じで聞いてくる。
「あの……大旦那様、この砂糖はいかがいたしましょう?」
……大旦那様かよ! 一応主人となっているカイトの上だからそうなるのか……。
「あぁ……俺の目的は済んだから、料理に使うなり何なり、どうでも好きなようにしていいぞ?」
そう言ってやると手放しで喜んだ。
「これだけあれば当分は保ちます」
え? 砂糖で一キロ足らず、黒砂糖を足しても一キロ半だろ? すぐに無くなるんじゃないのか?
「いや? 苺や林檎のジャム……砂糖煮を作ろうとしたら、果実の半量から七割くらいの砂糖を使うだろ? これくらい、あっという間じゃないか?」
そう言うと、全員が狂人を見るような目で俺を見つめた。……なぜだ。
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一頻り皆と話して解ったのは、現代日本とこっちの世界との食糧事情の格差が大きすぎるという事だった。現代日本で苺ジャム三百グラムを買おうとすれば、よっぽどの高級品でない限り五百円くらいだろう。その量のジャムに使われている砂糖の量を、甘さ控えめに見積もって苺の半分の量とすれば百グラム。こっちの物価に換算すると金貨三分の一枚になる。三万三千円のジャムを気軽に食べると言えば、そりゃ呆れもするか。……という事は……。
「皆、甘いものを食べる機会は少ないのか?」
そう問うと、皆が当然というように頷いた。年に一回、祭りの時に蜂蜜を口にできるかどうかだと言う。
……何とかできないものかな。




