第七章 シルヴァの森 2.迎撃戦
描写はあっさりしていますが、殲滅戦が実施されます……一応は。本話あたりから、クロウが段々と自重を忘れてゆきます。
ホルンを通じて、エルフたちの知る限りの侵攻軍の情報を聞き出した。同時に精霊樹の爺さまにも協力してもらい、精霊たちに男爵軍の情報を探ってもらう。あ、風魔法は無事習得して、実用レベルの飛行が可能になった。
侵攻軍は二個の梯団に分かれており、先鋒に一個中隊、補給を伴う交代用にもう一個中隊が後続する。侵攻ルートも判明したので、待ち伏せの場所を検討する。ある程度エルフの村から離れた位置にしないと、気になったエルフがこちらを見に来るかもしれんしな。
先鋒の部隊が近づいて来た。交戦想定域は既にダンジョン化を済ませているが、樹木や下草を含めて周囲との見分けはつかない。ダンジョンとしての強化は最低限だが、そのせいで魔力の放出も抑えられているので、よほど注意深い指揮官でもなければ気づかない筈だ。
交戦想定域――要するにダンジョンの領域――に接近してきたのを見ると、結構人数が多い。この世界の一個中隊は大体二百人だそうだが……ちょっと待て、エルフ相手の森林戦に重装歩兵? しかも綺麗に整列して行進?
『ご主人様……エルフたちは……弓を得意とします……その対策として……金属鎧を……持ち出したのでは……ないでしょうか』
『いや、エルフって魔法も得意じゃなかったか? 魔術師相手に機動力を捨てた理由が解らないんだが?』
『兵たちの……会話を聞くと……魔法避けの護符を……ヤルタ教会から……提供されたと……話しています』
『なるほど。実際に効くかどうかは判らんが、その護符があるもんで自信満々に進んで来たんだな』
『でも、マスター、そんな護符を持ってるんじゃ、魔法が効きますか?』
『キーン、魔法避けの護符は魔法そのものにしか効かないはずだ。魔法の結果引き起こされた現象そのものにまで効果があるとは思えん。それに俺のダンジョンは、いまだに何の影響も感じていない』
『直接ぶつけた火魔法は弾かれても、燃え広がった火を払う事はできない、そう仰りたいのですな』
『そういう事だ。しかし山火事を引き起こすのも問題だしな。もっと単純な手でいこう』
色々と手順は考えていたのだが、予想もしなかった重装歩兵による入場行進――としか言いようがないな、アレは――を目にした俺は何かもう面倒になって、行列の足下を空洞化して全員を穴――と言うか、溝?――に落とし込んだ。緊張感も警戒心もなく、見かけだけは綺麗に整列して行進していたから簡単だったな。あとは水を流し込んでやれば、重い鎧が足枷となって浮かぶ事もできず、侵攻軍先鋒一個中隊二百名は溺死した。
『うわぁ、ますたぁ、容赦なぃですぅ』
『一個中隊の殲滅に要した時間が十分足らずですか。軍人は皆泣きますな』
一個中隊分の屍体はダンジョンに吸収したが、装備はまだ吸収せずに残している。後でロムルスとレムスのダンジョンに、ダンジョンゲートを使って持ち込むつもりなので、ダンジョン化はまだ解除しない。一応、穴だけ塞いでおいて、一見元通りの森に戻す。とは言え、もうしばらくここには近づかないよう、エルフたちに釘を刺しておこう。何か気づかれると面倒だしな。
『さて、先鋒の一個中隊は片付けたが、森の外にはまだ一個中隊が丸々残っている。こいつらの始末は任せるぞ。護符の弱点については聞いていたな? 姿を隠したまま片付けろ』
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森の外で待機していたバレン男爵軍第二中隊は、突如として正体不明の敵からの攻撃を受けた。敵の姿は見えないのに、突然自分の周囲に炎が立ち上る。下草に足を取られ、あるいは地面が突如泥濘に変わり、横転したところを燃え広がった火に焼かれ、どこからともなく飛んできた水の槍に貫かれ、火に怯えて暴走した馬に蹴られ、踏み潰され、多くの兵が死んでいった。
殺すためにやって来た彼らであったが、自分たちが殺される事は覚悟していなかった。恐慌状態に陥った上に、火災の煙で視界を奪われ、呼吸すら満足にできない。正常な判断力を失った集団は、手当たり次第に剣を振るう。あちこちで同士討ちが始まり、仲間を敵と誤認した者たちによって、ある意味滑稽な悲劇は更に拡大する。
ぼろぼろに傷つきながらも生き延びて脱出した者は三十人足らず。ここにバレン男爵軍シルヴァの森侵攻部隊は壊滅したのである。
生き残った者からは、事態の究明に役立つ何の情報も得られなかった。彼らは唯くり返すのみであった。シルヴァの魔物にやられた、と。
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『よ~し、ライ、済まんが水をかけて延焼を防いでくれ。この辺り一帯もダンジョン化する。その後でダンジョンスキルを使って消火するから、延焼にだけ注意してくれ。何度も広い範囲をダンジョン化するのは疲れるからな』
森の中と同様に戦場をダンジョン化し、屍体をダンジョンに吸収する。装備や補給品は後で先鋒部隊のものと一緒にまとめておこう。馬はそのまま逃がしておく。馬に非はないからな。
こちらの戦いでは得るものが多かった。うちの子たちの実戦経験は何よりも貴重だし、パニックになった兵たちが同士討ちを始めたのは興味深かった。戦術としては面白いかもしれん。この後、バレン男爵領に挨拶に行くつもりだから、そこでの作業に役立つかもしれないな。
クロウたちの次なる追い討ちの一手は明日に。




