第一章 洞窟 2.スライム
相変わらず短めです。
見つけたスライムもどきがあんまり弱っているようなので、水筒の水をかけてみた。水はすぐさま吸収されたようで、地面を濡らす事はなかった。相変わらずスライム……のようなものは動かない。用心しながら、もう少しずつ水をかけてみる。しばらくするとスライム――もうスライムでいいか――は、元気を取り戻したのか、体の表面を波打たせ始めた。
カ○リーメイトの欠片を与えてみるとすぐさま取り込む。欠片が溶けるように消えていったのをみると吸収したのだろう。心なしか嬉しそうに見えたので、残りも全部与えてみる。すっかり元気になったようだ。いやぁ、カロリー○イトってスライムにも効くんだね。うん、偉大だ。
とりあえず探していた「証拠物件」は確保したので、できれば持ち帰りたい。写真を撮るのをすっかり忘れていた。デジカメで撮影したいところだが、フラッシュに興奮して飛びかかられても逃げられても困る。赤外線カメラなんて気の利いた物は持ってないんだ、俺は。
小説やゲームの中では、スライムは生きものを溶かして捕食する事になっているから、素手で抱えて持ち帰るのは御免だ。スコップで掬うようにして持ち帰るしかないかと思って先を近づけると、スライムはぴょんと跳ねるようにスコップに乗ってくれた。こちらの心中を推し測ってくれたような行動に少しばかり感動して、スライムを持ち帰る。暴れる事も逃げようとする様子もなく、そのまま室内について来てくれた。えぇ子や。
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スライムを連れ帰ったのはいいが入れておく容器がない。以前外国産のクワガタムシを飼っていた――外来生物法に引っかかったのでやめた――水槽はあるが、何となく小さすぎるような気がする。スライムの正しい飼い方なんて知らないが、狭すぎる水槽で飼ってストレスを与えるのは駄目だろう。
さてどうしたものかと室内を見回していたら、スライムがぴょんとカップ麺の空き容器に飛び込んだ。飲み残しのラーメンスープをあっという間に吸収し、ついでに空き容器も吸収して満足げである。高血圧にならなきゃいいが。
床だの壁だのを食われても困るのだが、そうする様子はない。やがてスライムは満足げに俺の脚に取りつき、ぎょっとする暇もなく軽やかに肩に登って落ち着いた。何となく大丈夫なような気がしたので――なぜか確信めいたものがあった――そのままにしておく。写真は後で撮るとしよう。
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スライムとの同居生活も三日目。
雑食のようでなんでも好き嫌い無く食べてくれるので、餌の心配はしなくですんだ。初日にカップ麺の残りを容器ごと取り込んだのを別として、こちらが与えた物しか食べない。暴食も盗み食いもしない。行儀良く温和しく、騒がしくもなく、糞もしない。ペットとしては理想的なんじゃなかろうか。子供の頃から色々な生きものを飼ってきたが、このスライムほど飼いやすいのはいなかったように思う。食べ物を与えてやると何でも喜んで食べ、一食ごとに元気になっていくようだ。その割に体はあまり大きくならないのもありがたい。
飼育容器に閉じこめるのは諦めた。懐いてくれる様子を見ると何か罪悪感がこみ上げてきたし、カップ麺の容器を一瞬にして溶かした事から、閉じこめておける容器の心当たりが無いというのもある。実際、ガラスのビー玉を与えてみたら問題なく吸収したしな。
写真をネットに上げようかとも考えたが、どうせ信じちゃくれないだろう。信じたら信じたで、騒ぎが起こるのは目に見えている。どこで誰が騒ごうと俺の知ったこっちゃないが、こっちの生活が乱されるのは御免だ。
クローゼット内の洞窟だが、三日経った現在でもまだ消える様子がない。もう少し探索を続けてみようか。