第七十二章 エッジ村アクセサリー事情 2.ホッブ氏への置き土産
エッジ村を出る前に、ホッブさんに幾つかの品々を渡しておこう。丸玉と未整形の原石――研磨はしてある――の他に真鍮線を少々、加工用の道具としてはラジオペンチとニッパーがあればいいだろう。これらも幸い使い古しがあるから、それを渡せばいいだろう。
マンションの自室から持ち出そうとしたところに、ハイファ――の分体――から待ったがかかる。
『ご主人様……握りの……部分に……巻いて……あるのは……何ですか?』
握りの部分? ……危ねぇっ! ビニルのカバーがついたままだ。
『うっかりしていた。コレは外しておかんとな。助かったぞ、ハイファ』
ナイフで剥がすのは手間がかかりそうだな……錬金術で……できたよ。本当に便利だな、錬金術。真鍮も向こうの銅と亜鉛から錬金術で作ったし。出来合いを買ってきた方が楽なんだが、日本で買ったものを向こうに持って行くと、どんな効果が付くか判らないからな。
さて、それじゃこれを持ってホッブさんの所へ行くとするか。
『留守を頼むぞ、ハイファ、それにゲートフラッグ』
『行って……らっしゃい……ませ』
ハイファたちに見送られてクローゼットから洞窟に移動する。あ、ゲートフラッグは葉を震わせて見送ってくれた。……あいつも従魔扱いになるのかどうか、確認しておいた方がよさそうだな。
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「で、俺がいない時に何かあった場合の事を考えて、素材と道具を置いていきますが……女性陣には知られないようにしないと大変ですよ?」
「……んだな」
「使い方は夏祭りの前にお見せしたから解りますよね?」
「んだ」
「いえ……試作品を作ってみたいのは解りますが、材料があると知れたら……新年祭でも着飾ったりするんじゃないですか?」
「んだよ……」
「……やっぱり、隠しておいた方がいいですよ。これらはあくまで万一のためで、わざわざ万一を呼び込むような真似はしない方が……」
「んだなぁ……」
うん。俺も以前「万一の備え」が露見して、大変な目にあったからね。
クロウは遠い目をして、王都の素材屋で魔石珠を見られた時の事を思い出す。ホッブ氏はやや不思議そうにそんなクロウの様子を眺めていたが、大方何かやらかした前科があるのだろうと納得する。
「……俺の経験からの忠告ですが、道具はともかく素材の方はきっちりとしまい込んでおく方がいいです」
「ん……」
夏祭り前のブラックな日々を思い返して、二人の職人は追加分の素材については隠し通す事を決めた。
「まぁ……黙っておけば大丈夫だと思いますけど……いや、ホッブさん、試作品はくれぐれも隠し通して下さいよ?」
……ホッブさん、真鍮線で試作したくてウズウズしてるみたいだな。……こりゃ、ばれるのも時間の問題か。来年帰ってきた時に、また扱き使われる事を覚悟した方がよさそうだな……。




