第七十一章 バンクスへ 2.シャルド~到着~
何だかんだで旅も二回目となると日程も捗り、予定よりも早くシャルドの地に着いた。雪に遭うのが心配だったから、その事自体はいいんだが……。
『マスター、何か様子が違ってません?』
『ああ、去年と違って人の気配が濃厚……っていうか、明らかに住人がいるよな』
去年までの廃屋は修理されて、宿や食堂、休憩所に姿を変えている。家々の周りに生い茂っていた草は無くなり、宿屋らしき家の裏手には修理された馬小屋があり、そこには数頭の馬までが繋いである。何よりもあちこちにたむろしているエルフや獣人たちの数が多い。皆、楽しげに談笑している。第一大隊の二人に聞いてはいたが、まさかこれほどとは……。
しかも、宿の近くにいるエルフや獣人は全体の一部でしかないようで、彼らが最も集まっているのは……
『ますたぁ、あそこ、入口?』
『位置的には確かにそうなんだが……』
『人垣で何も見えませんな……』
いや、あそこって単なる入口だろ? 正真正銘、地下に入る入口があるだけの平地だぞ? 何が彼らをそこまで駆り立てるんだ?
「よぉ、あんた、ここは初めてかぃ?」
呆然として立ちつくしていた俺たちに声をかけたのは、ここの新たな住人らしい中年の男だ。
「いや……初めてというか……去年もここに泊まったんですが……」
「あぁ、野営場所の当てが外れた口かい? まぁ、去年泊まってるんなら猶更驚くわな」
「人づてに見物客が増えたというのは耳にしたんですけど……敢えて聞きます。一体何があったんですか?」
「ははっ、まぁ、そう言いたくなるのも無理は無ぇわな。けどよ、今は冬だし、これでも大分落ち着いたんだぜ?」
落ち着いた!? これで!?
男の言葉に再び入口の方を振り返る。あの人垣はどう見ても落ち着いているようには見えないんだが……これで落ち着いたんなら、最盛期は上野動物園のパンダ並みだったんじゃ……。
「信じられねぇって顔だが、これでも落ち着いたんだ。最初の頃は見物人同士の場所取りが過熱して、冗談でなく刃傷沙汰になりかけたからな」
うわぁ……。
「ま、それはいいやな。ところであんた、ここに泊まるんなら、早いとこ宿を決めねぇと、泊まりっぱぐれるぜ?」
顎をしゃくって後ろの方を指す男の言葉にふと周りを見回すと、見物人の数はさっきより増えている。注意してみると、南すなわちバンクス方面から結構な数が今もやって来ている。
「……えっと……お勧めの宿はありますか?」
そう聞くと男は、よくぞ聞いてくれたという雰囲気で……。
「あぁ、ウチがまさにそのお勧めってやつだ。安くしとくぜ?」
「……個室で一泊お願いします」
「毎度~」
・・・・・・・・
部屋に案内してくれた男の子に聞いたんだが、冬になって見物客の数が減ったというのは本当らしい。一時は宿の周りにテントが立ち並んで、食事だけを宿でとっていたそうだ。
「でも、冬なら見物が少ないだろうって当て込んで来てる人も多いみたい。父さんが言ってた」
おぉう……。
遺跡を見に行くのかと聞かれたんだが、あの混雑振りを見るとちょっと腰が引ける。もう少し空いてからと答えたら、終日こんなもんだと言われた。
「お客さんを案内するんだけど、人が多いと大変なんだ……」
そうだろうな……。早朝は比較的空いていると言うので、明日の朝に案内をお願いする事にした。
『ご自分で造っておいて、今更見物するんですか? マスター』
『いや、使用前使用後って言うか……どう変わったのか見たいじゃないか?』




