第七十章 亜人連絡会議 3.ノンヒューム
少し短めです。
亜人連絡会議の事をあれこれ考えているうちに、ふと気になった事があったので聞いてみた。
「そういえば、お前たちは自分たちの事を何と呼んでいるんだ?」
「は?」
聞き方が悪かったか……
「いや、人間どもはお前たち、エルフや獣人を引っくるめて『亜人』と呼んでいるが、あれはお前たちを一段下に見た言い方だろ? お前たち自身は何と呼んでいるのか気になってな」
問いかけたら……三人とも戸惑ったように顔を見合わせてるな。
「……そういう事は考えた事もありませんでした」
「普通なら、エルフはエルフ、獣人は獣人だからなぁ……」
「だが、今回のように種族を越えて手を取りあう場合には、必要な名称かもしれんぞ?」
「俺もトゥバと同意見だ。人間以外ということで団結し、強く結束できるからな。自分たちのアイデンティティをしっかりと持っておくのは、こういう抵抗運動にとっては有益なんじゃないかと思うぞ」
共通の敵を前にした時に人は最も強く団結するって、誰かが言ってたな。
「アイデンティティ……ですか?」
「あぁ、自分という存在は何者なのかという自己定義や自己認識……済まんな、上手く説明できん」
「いえ……確かに自分たちの帰属意識の確立という意味では重要ですね」
「エルフだ獣人だなんて狭い了見じゃなく、もっと大きな集団の一員だって自覚を持つってわけか……」
「言い換えると、種族間の敷居を取っ払うって事か……」
ほほう。これはまた、一段と高い視点で考え始めたな……。この様子じゃ三人とも、各集落では指導的な立ち位置にいるんだろう。
「精霊使い様には、何かお考えはありませんか?」
お、こっちに飛び火してきたか……。
「いや、こういうのは当事者が考えるべきだぞ?」
「しかし……恥ずかしながらご指摘を受けるまで気付かなかった有様でして……何かお考えがあればお聞かせ願えないかと……」
「人間以外の人類っていう事だからなぁ……お前たちの神話か何かに共通の祖先とかは登場しないのか?」
「共通の祖先……いえ、それよりも、先ほどは何と仰いましたか?」
「うん? 人間以外の人類か?」
「精霊使い様のお国の御言葉ですか?」
あぁ、英語の発音はスキルで翻訳されなかったのか……
「つい訛りが出たな。あぁ、『ヒューマン』は人間、『ノンヒューマン』は人間以外の、という意味で、『ホミニッド』は人類という意味だな」
「ノンヒューマン……その言葉をお借りしてもよいでしょうか?」
別に俺がどうこう言える筋合いじゃないし構わないと答えると、三人で何やら相談していたが、結局は言いやすいように短く変えて「ノンヒューム」という言葉を、「亜人」に代わる自らの呼称として採用するようだ。




