第七十章 亜人連絡会議 2.対テオドラム王国戦略策定指針
「ふむ……これが頼んでいたテオドラムに関する報告書か」
「あ、はい。とりあえずという感じで皆の知見を纏めただけのものなので、内容にも乏しく、正確性にも絶対の確信は持てませんが……今後の情報の集積を待って、順次改訂していく予定です」
「あぁ、今の時点ではごく大雑把な傾向さえ判ればいい。それだけでも知っているといないとじゃ、天と地ほどの隔たりがあるからな」
そう言いながら、クロウは手元にある一枚の紙を眺めた。
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~テオドラムの国情に関する報告書(予稿)~
【立地】
平地が国土の大半を占め、山地が無い。以前にあった平地林のほとんど全てが農地に変えられているため、木材や林産物は慢性的に不足している。
国内に独自の水源を持たず、水は国土を貫いて流れる河川に依存している。小さな泉や井戸はあるが、大規模なものはない。
【産業】
産業はほぼ農業のみ。なまじ可耕地が多いため、農業技術の発達は却って遅れ気味だが、生産効率の低さを上回る生産面積の広さで大きな農業生産を上げており、農業市場で存在感を放っている。
農産物のほとんどは小麦であり、品質は必ずしもよくないが、安さと大量供給を武器にして小麦市場の独占を謀っている。これに対して、他国は農業技術の改善による生産効率の向上と、高品質な農産物の生産で対抗している。
テオドラムが独占的に生産しているのは砂糖であり、低品質の黒糖と、それよりはやや品質のよい白下糖を生産している。どちらも海外からの輸入品に較べると質は悪いが、安いという事でそれなりの需要がある。
国内外の大きな交易都市、あるいはその近くには国営の酒造所があり、安いエールを独占的に供給している。
農産物の大半(砂糖の場合は全て)を国が買い上げ、一括して商人に卸すようにしている。
【国交】
遊牧民に追われた難民たちが集まって建国した国のため、遊牧民が建国した国々とは今も仲が悪い。どちらかというと、沿岸国家との交易の方が盛ん。
【軍備】
遊牧民国家との紛争を繰り返してきたため、対騎兵戦の戦術や戦備は優秀。その一方で、国民に魔力持ちが少ないため、魔術戦の能力は低いとされる。大規模な飛竜部隊を抱えている。
軍の編制は連隊制をとっており、各都市に七個の連隊が配備されている。
【宗教】
最近になってマルクトにヤルタ教の教会が建てられた。
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「中々に参考になりそうな事が書いてあるな」
「そう言って戴ければ光栄です。ですが、これはあくまで叩き台のようなもので、今後はもう少し『報告書』の名に恥じないものにしたいと、一同考えています」
確かに……「報告書」と言いながら紙一枚きりだもんな……。
「まぁ、それは楽しみにしておこう。では、その心意気に免じて、俺からも一つ教えておこう」
そう言うと三人は真剣な表情になった。
「テオドラム軍は魔術戦の能力は低いとされているようだが、やつらなりに考えているようだぞ? 魔石を使った魔兵器を装備していた。恐らくは攻城兵器の類のようだが、詳しい調査はまだ済んでいない。ついでに言っておくと、冒険者たちは大抵が魔石を使った目眩ましの魔道具――使い捨てだが――を持っているようだ。侮るのは危険だぞ?」
未遂に終わったイラストリア侵攻戦については、まだ話さなくていいだろう。




