第七十章 亜人連絡会議 1.設立準備委員会(仮)
本筋に戻ります。
師走の声も段々と大きくなる頃、ホルンから会いたいという連絡があった。懸案事項の連絡会議の件だろう。承諾の返事をして、当日待ち合わせの場所に出向くと、前回と同じ三人が揃っていた。さしずめ「亜人連絡会議設立準備委員会」ってところだな。思わず内心でニヤニヤとしたが、そんな事はおくびにも出さずに澄ました顔で問いかける。
「本日のお題は何だ? 連絡会議の件か?」
「はい。どうやら形になりそうなので、一旦ご報告をと思いまして」
代表として話すホルンから状況を聞いていく。とりあえず彼らと交流のある国内のエルフや獣人の集落には連絡を取り、全集落から参加の返事を貰ったそうだ。のみならず、隣国のエルフや獣人の集落からも参加の意思が寄せられているという。一応、定期的な会合はエルギンの町で持つ事にしたらしい。
「以前からエルフや獣人の出入りが多い町でしたから」
「日時さえ決まれば、それに合わせて出てくるだけか」
「行商をしている者たちも、できるだけエルギンまで足を伸ばすそうです」
「拠点は確保したのか?」
「いえ……そこまではまだ……」
「なるべく早く確保しておいた方がいいぞ。定例会議の日以外でも集まれる場所があるというのは何かと便利だからな。今後も人数が増える事を考えると、それなりに大きな建物が必要になるだろうが……心当たりはあるか?」
俺一人ならダンジョン開設でどうにでもなるんだけどね。
「いえ……そういう事を考える機会がなかったもので……」
「潰れた宿屋なんかだと理想的なんだが……土地だけ確保したら、自分たちで建てる事はできるか?」
ホルンたちは互いに顔を見合わせる。
「家を建てた経験がないわけじゃありませんが、いずれも森の中での小屋のようなものです。街中に建てた事はないので……」
「まして、そのように大きな建物となると……」
ふむ……。
「それじゃぁ、領主に掛け合って準備させるか?」
「はぁ!?」
「別に恩着せがましく強請るわけじゃない。エルフや獣人の出入りを増やすためだと言えば、先の見える領主なら、手持ち物件の一つや二つ寄越すだろう」
「……一応、他の皆とも相談して決めます」
うん。なるべく早く決めた方がいいぞ。
「あとは……通信手段の確保が問題か」
「通信、ですか?」
「あぁ。さすがに隣国とかになると、連絡を取るのも大変じゃないのか?」
「それは……そうです。魔道具はいくつかあるんですが、全集落に行き渡るほどの数は……」
「ネックになっているのは何だ?」
「魔石です。こればっかりは簡単に入手できませんので……」
やっぱりか。準備しておいてよかったぜ。俺は携帯用のダンジョンゲートを持ち出すと、倉庫に繋がるゲートを開く。予め作っておいた魔石が袋一つ分ほど置いてあるのを引っ張り出して……ふと見ると、三人の顔色が悪い。
「……何を呆けている? この魔法陣は迷いの森で見せた筈だぞ?」
「……こういう使い方をするとは存じませんでしたので……」
「ふむ? まぁいい。こんな事もあろうかと――男なら一度は言ってみたい台詞だよな――準備しておいた魔石だ。通話の魔道具を作るぐらいなら使えるだろう」
そう言って袋ごと渡すと、ホルンは能面のような顔になるし、他の二人はポカンと口を開けて間抜け面を晒すし……。
「……おい、どうした」
強めに声をかけると、どうやら正気に戻ったようだ。
「す、済みませんでした。ちょっと魂が抜けていたようで……」
「この程度の魔石でそれは大袈裟だろう?」
クリスマスシティーの再生用に、直径八十センチの「理外の魔宝玉」を用意したのに較べるとな……。
……何で引くんだ?
双方の認識と価値観に、微妙という以上のズレがある事を確認したクロウと亜人たちであったが、そこは両者とも大人であるから、そ知らぬ顔でスルーしておく。
「……とりあえず、これだけで足りるか?」
「……充分すぎるほどです」
「具体的な会合の形式などについては、今後詰めていかねばならんだろうが……さしあたって気になった問題は先ほどの二点くらいだな」
「なるべく早いうちに対応します」
別の場所へ造った「保管箱」に通じる魔法陣をホルンに渡して物品の遣り取りをする事も考えましたが、万が一魔法陣を奪取されて、「保管箱」内に毒物や病原体を仕掛けられる危険性を考慮して没にしました。




