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第六十九章 亡命貴族? 6.マナステラ王国

 マナステラ王国の若き国王は、隣国イラストリアの密使が届けてきた書状を前にして首を(ひね)っていた。



「わが国で贋金(にせがね)が出回っているかどうか……とは、妙な調査依頼だな?」

「はぁ……まことにもって……。しかし、エメンとやらはそれ程に凄腕の贋金(にせがね)造りなのでございましょうか?」

「うむ。この書状によれば、イラストリアでは贋金(にせがね)が横行したために、貨幣の(かい)(ちゅう)まで行なう羽目になったそうだ」

「そこまで……それでわが国の事を心配したと?」

「少し違うようだな。エメンが国外に脱した形跡があるとかで、万一わが国に逃げ込んで悪さを働いた場合、責任を追及されるのを面倒がったというのが正しいだろう……この書状の内容を信じる限りはな」

「何か裏があるとお考えですか?」

「あるに決まっておる。ただ、どんな裏なのかが判らん」



 国王は不機嫌そうに書状を机の上に投げ出す。その様子をちらりと眺めながら、宰相が私見を述べる。



「今のところ、あの国との関係に問題はありません。わが国に何かを仕掛けようとしているとは考えなくてもよいでしょう。であれば、大っぴらにし難い情報源から得た内容を、それとなくこちらに流しているのではないかと」

「……何者かがわが国で贋金(にせがね)造りを画策しておると?」

「言い切るほどの確信はないのでしょうな。僅かな可能性ではあるが、無視するには重大。それがこのような表現になったとすれば、一応納得はいくかと」



 誤解である。


 というか、深読みのし過ぎである。イラストリアは単純にマナステラで贋金(にせがね)が造られているかどうかを知りたかっただけなのだが、陰謀策略に浸り切った政治家たちにしてみれば、そう単純には受け取れなかった。



「……どこだと思う」

「イラストリアといえば、先頃テオドラムが国境付近で妙な動きをしたばかり。このタイミングで知らせてくるとなると……」

「……テオドラムか」



 ()(ぎぬ)である。



「ともあれ、贋金(にせがね)について調べておく事は無駄ではないでしょう。市中に出回っている金貨銀貨の幾つかを回収して、真贋(しんがん)を調べるだけで済みますからな。折角ですから、貨幣の摩耗の度合いを調べるという建前(たてまえ)で大々的にやれば、どこぞの国を牽制する上でも役に立とうかと」



 調べる側の苦労をさくっと無視した形で宰相が述べる。ともあれ、これで一応イラストリアの思惑どおりの結果にはなった。



 ささやかだが重大な誤解を置き土産として。



・・・・・・・・



 深夜、マナステラ王国の首都の一角にある裏小路。人影すら定かでないその場所で、イラストリアから派遣された密偵が地元の情報屋と接触していた。



「ここ半年の間にマナステラを出国した貴族?」

「一家丸ごとではないかも知れんがな。いわゆる御曹(おんぞう)()ってやつだ」

「そっち方面の伝手(つて)は薄いんだが……一応は当たってみる。あまり期待せんでくれよ」



 寸刻の後、二つの影は溶けるように闇に呑まれた。

もう一話更新の予定です。

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