第六十九章 亡命貴族? 3.ヤルタ教中央教会
本日三話目の更新です。
「イラストリアの兵士がエメンの行方を嗅ぎ廻っておると?」
ヤルタ教教主ボッカ一世は部下の言葉に怪訝な顔をした。
「あの者は……口を噤んだのであろう?」
「はい。何も話す事はないでしょう」
要するに、口封じのために始末したと言っているのだ。
「ヴァザーリでの偽金貨の一件は半年も前の話。……なのに、なぜ今頃になって調べを再開する?」
何か新たな展開があったとしか思えないが、それに関する情報は教主のところには入っていない。
「新たに贋金が出回っている様子はないのじゃな?」
「今のところそういう話を掴んではおりません。無論、各地に部下を派遣しているわけでも、特に贋金を追っているわけでもありませんが……。如何致しましょうか?」
聞かれた部下も困惑するしかないが、素直に現状を報告する。事実を報告したくらいで立腹しないのは、この上司の美点だ。部下はこの一点だけでも教主を高く評価していた。
「うむ……。いや、とりあえずは現状維持でよい。それよりも、国軍の兵士の動きに注意せよ。どこに兵士を派遣しておるかを確かめるのじゃ」
「心得ました」
・・・・・・・・
この件に関するその後の報告もまた、教主を困惑させるに充分であった。
「……贋金を探しておるのではなく、エメン本人を探しておると?」
「断定はできませんが……特に金貨を検めるでもなく、半年前の贋金の流通状況を追っておるようで……」
諜報部隊を任されている部下としても、国軍の動きは不可解であった。
「ふむ……贋金の所在は既に知れており、エメンをその実行犯と見て探しておるのか?」
教主の言葉に頷いて賛意を示す部下。現在の状況を無理なく説明しようとすれば、教主と同じ結論に至る。ただし……。
「じゃが、王国内で贋金が出回ったという話は聞かぬ……。王家は何を知っておる?」
教主は考え込むが、どうにもデータが少なすぎると思い直し、必要なデータが揃ったかどうかを部下に問い合わせる。
「それで、国軍が兵士を派遣したのは何処か判ったかの?」
「それが……」
その答えもまた教主を混乱させた。
「マナステラにテオドラム、とな?」
「はい。マナステラには先頃王家から使者が送られました。内容については不明です。テオドラムにはその前から密偵を送っているようです。確認できた範囲ではこれくらいですが……」
「ふぅむ……テオドラムの方は判らんでもない。先頃イラストリア侵攻を企てて失敗したようじゃからな。しかし、マナステラとは……」
完全に予想外の場所であった。
「……テオドラムとマナステラ両国内の教会に通達を出し、何かが起きていないかどうかを確かめさせよ。特に贋金の件、およびイラストリア・マナステラ・テオドラムの三国、あるいは少なくとも二国に関わりのある件については、優先的に探らせよ」
「御意」




