第六章 空へ 2.応用
そろそろクロウのユニークスキルが自重を投げ捨て始めます
『ロムルス、レムス、ダンジョンの壁って破壊不能だとされているよな。あれって、単純に硬いだけなのか?』
『いえ、クロウ様。もちろん硬いには硬いのですが、それよりも加えられた力を、物理的なものであれ魔法的なものであれ、即座に全て吸収するのが大きいのですよ。吸収した力はそのままダンジョンのエネルギーとなります』
やっぱりな。刀剣などの運動エネルギーを完全に吸収するのなら、ダンジョンには何のダメージも入らないわけだ。
『ロムルス、仮に野外にダンジョンの壁を設置したとして、突風や雷がその壁に当たっても……』
『何の影響も受けません』
『重力はどうなっている?』
もしダンジョンの壁が重力――というか引力――をも無効化するのなら、ダンジョンの壁は地球どころか太陽の引力を振り切って宇宙空間に飛び出してもおかしくない。飛び出さないなら引力の束縛を受けている事になる。
ロムルスとレムスの協力のもと、ダンジョンの外で実験的に壁を設置したりしてみたが、生み出されたダンジョンの壁が大地と接続しているのが主な原因のようだ。しかし、俺の「壊れたダンジョン」のスキルでは、完全に独立した形でダンジョン壁を生み出す事ができる……。
「壊れたダンジョン」で生み出したダンジョン壁も、そのままだと引力の束縛を受けていた。しかし、生み出す時に重力を中和するイメージで魔力を込めると……引力の束縛から解放されたダンジョン壁の欠片は、空の彼方へ飛び去った。地球の引力を振り切って太陽系の人工惑星になるのに必要な速度が第二宇宙速度で秒速十一キロ強、太陽の引力を振り切って太陽系を脱出するのに必要な速度が第三宇宙速度で秒速十六~十七キロだったかな……。
『クロウ様、速さというか運動エネルギーで引力を振り切っているわけではありませんから、もう少し穏当な速度じゃありませんか?』
確か重力というのは地球の引力と、地球の自転によって生じる遠心力との合力。ここで引力が消滅したとするなら、地球上の物体に働く力は地球の自転による遠心力のみ。自転速度は毎秒半キロほどだから、その速度では第一宇宙速度にも達しない。しかし地球や太陽の引力の影響を受けないなら、その速度で太陽系を脱出する事もあり得るのか……。
専門外だから計算が合ってるのかどうか判らないが、万一を考えて野外実験は中止。うん、この世界初の人工衛星になんかなりたくないからな。
ダンジョン内に移動して実験を継続する。ダンジョン壁の欠片を手に持って、すこしずつ引力を中和するように魔力を込めていくと、ふわりと浮き上がった。
浮かぶ高さも調整可能のようだ。
『クロウ様……ダンジョンマジックでこんな事ができるなんて、思ってもみませんでした……』
まぁ、俺のダンジョンマジックは普通じゃないからね。ぶっ壊れてるし……。
いい機会だから、久しぶりに自分の能力を鑑定してみようかね。
【個体名】烏丸良志(からすまる・ながゆき) クロウ
【種族】???
異世界からこちらの世界に移動した際の衝撃で、たまたまダンジョンコアと融合した異世界人。融合したダンジョンコアがまだ未熟なものであったため得たスキルは少ないが、その後の度重なる異世界間移動に伴って身体に膨大な歪みを蓄積した結果、常識外の魔力を保有するようになった。ただし、現時点では魔力放出系の魔法スキルを得ていないため、魔力の使用は制限された状態にある。
【地位】ダンジョンの支配者
【レベル】7
【ユニークスキル】「壊れたダンジョン」 レベル5
自分を起点とした半径三十メートルの範囲内に任意にダンジョンを設置できる。設置できるダンジョンの規模は術者のレベルに依存する。また、自分で設置したダンジョン内を瞬時に移動できる。また、自分で設置したダンジョン間にダンジョンゲートを設定する事で、ダンジョン間を自在に移動できる。ダンジョンの内部構造を任意に変更できる。ダンジョンコアを生成および育成する事ができる。ダンジョン壁と同様の能力をその身に纏う事ができる。ダンジョン内にモンスターを召喚できる。召喚できるモンスターの種類は術者のレベルに依存する。ダンジョン内外でアンデッドを使役できる。同時に使役できるアンデッドの数および活動範囲は術者のレベルに依存する。
【スキル】異言語理解 鑑定 従魔術 眷属強化 念話
……ついに種族不明になったか……。
いや、そうじゃなくてだな……気をとり直して。
「壊れたダンジョン」 のレベルが大きく上がっている。前回はレベル2だった筈だ。ロムルスとレムスの再生や、新たなダンジョンを造ったりしたのが効いてるんだろう。何気に地位も「ダンジョンの支配者」にクラスアップしてるしな。で、「壊れたダンジョン」 の説明に、「ダンジョン壁と同様の能力をその身に纏う事ができる」ってあるんだが。これってつまり……
結論から言うと、一々ダンジョン壁を作成する必要無しに、ダンジョン壁の時と同じ要領で宙に浮く事ができた。レビテーションというやつだな。あとは風魔法、というか推進力さえどうにかすれば、念願の飛行魔法をゲットできるはずだ。
それもなんだが、「ダンジョン壁と同様の能力」って……。
『ロムルス、唐突だがお前、射出系の魔法を何か使えるか?』
『は?……ボール程度なら扱えますが?』
『よし、軽くでいいから俺に撃ってみてくれるか?』
『滅相もない……と言いたいところですが、理由をお聞かせ願えますか?』
『かくかくしかじかでダンジョン壁と同様の能力を得たらしくてな』
『なるほど……それでしたらウォーターボールを撃ってみましょう。軽くと言ってもそれなりの衝撃はある筈ですから、無効化されれば判るでしょう』
で、試しに撃ってもらったわけだ。一応比較のために、スキルを発動しない状態でも試してもらったが、結果ははっきりしていた。ダンジョン壁の能力を纏う事でウォーターボールの衝撃は完全に殺せた。ただし水に濡れる事自体は避けられなかったけどね。調子に乗って土・風・火と試してみたが、いずれも問題なく中和できた。物理的な攻撃も同じと考えられるから、俺は全攻撃無効の防御力を手に入れた事になる。とは言え、毒や病気、呪いなど、ダンジョン壁では中和できない攻撃もあるはずだから、防御力を過信するのは危険だろう。目立たず騒がず控えめに、という方針に揺るぎはない。けどまぁ、多少は心強いかな。
あとは風魔法かその他の推進力を手に入れたいな。
第六章はこれで終わりで、明日は新しい章に入ります。クロウが新たな厄介事に見舞われます。




