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第六十八章 レプティリアンの兄弟 3.お仕事

 揃いのお仕着せも無事届き、見よう見まねでカイトの召使いを始めたハクとシュクだったが、すぐにこれが想像以上の重労働である事に気がついた。何しろ、屋敷の規模の割に使用人の数が少ない――と言うか、二人を除くと料理人と庭番の二人しかいない。掃除や洗濯は言うに及ばず買い出しまでも、カイトたちが手分けして行なっている有様(ありさま)だった。


 いくら世間知らずのペット枠だったといっても、さすがにこれが普通じゃない事ぐらいは解る。そしてこの状況で追加された使用人というものが、たとえ八歳であろうと貴重な労働力であるという事も理解できてしまう。猫の手も借りたいくらいというのは、少なくとも心情的には誇張表現ではないのだ。



「ハク~、済まないけど廊下の窓を拭いといておくれ」

「シュク、暖炉に火を入れといてくれ。あ、そういや薪が減ってたな。薪小屋から運んどいてくれや」

「ハク~、窓が済んだらざっとでいいから廊下を掃いといておくれね」

「シュク、(わり)ぃが、干しといたシーツを取り込んどいてくれるか」



 適宜休憩は貰っているが、目が回るほど忙しい。子供二人の仕事量じゃないとも、自分たちが来る前はどうしていたんだろうとも思うが、そんな事を考えている暇すら無い。



「シュク~」

「ハク~」

「「はーい、ただ今ー」」



 それでも夕食は贅沢な料理を皆で――主人であるカイトたちと同じテーブルに着いて――しかもたっぷりと食べさせてもらえる。食後には毎日風呂にはいる事も許されて、というより厳命されている。奴隷とは思えない好待遇であった――仕事は多いけど。



「今日も一杯働いたね、兄さん」

「あぁ、けど、まだまだ頑張んなきゃな」

「そうだね」



 一応貴族という触れ込みのカイトが、毎日自分で自室の掃除と洗濯をやっているのを見る度に、申し訳ないという気にさせられる。



「さ、早く(やす)んで、明日も頑張ろう」



 健気(けなげ)爬虫人(レプティリアン)の少年二人の一日は、こうして終わる。



・・・・・・・・



「さすがに職場環境がブラック過ぎる……」



 クロウはオーガスティン邸の状況を思い浮かべながら呟いていた。並みの貴族よりも広い屋敷なのに、使用人はたったの四人。しかもその半数は八歳の子供というのでは、切り回すのがきつい……というより無理だろう。護衛の名目であと四人いるが、マリアを除けば家事の腕前は良く言って平均以下、正確に言えば話にならないレベルだ。手伝いどころか足を引っ張るのがオチだ。使用人の戦力強化は急務だと言える。



「と言う次第で家事戦力の増強を図った。今回増援分の四人だ」



 男性一人と女性三人が代わる代わる頭を下げた。



「ヨハンには外回りの事、家の補修なんかを主にやってもらう。アガーテ、ドロテ、マルタには掃除と洗濯、および炊事場の手伝いをやってもらう。ただし、自室の掃除はこれまでどおり自分たちでやってくれ」

「諒解しました」

「あの……ご主人様……そいつらも……その」

「あぁ、シュレクの鉱毒の被害者だ。穏健派を選んで連れて来た」


 ハクとシュクがいるのでカイトも話しにくそうだな。まぁ、自分たち以外全てアンデッドってのは、人格形成にも悪いかも知れん。安易に話さない方がいいだろう。


「まぁ、これで少しはハクとシュクの負担も軽くなるだろう」



・・・・・・・・



 勿論、そんな事にはならなかった。屋敷内の仕事の代わりに、外に出づらいアンデッドたちに代わって買い出しや発注などの使い走りが増えただけである。ただし、外に出る機会が増えた事は、少年二人の世界を広げる上では極めて重要な働きをした。


 (とし)()もゆかない爬虫人(レプティリアン)の少年が、毎日どころか毎時間のように使い走りをさせられている。奴隷とはいえ酷い扱いなのかと思いそうだが……着ている服は控えめだが上質の仕立物、食事もいい物を食べさせてもらっているようで肌の色つやもいい、汚れも臭いも感じないから入浴も洗濯も許してもらっているんだろう。はっきり言って、そこらの一般市民よりいい暮らしだ。ただし、目が回るほど忙しいのも事実らしい、というか確実だ。


 忙しい理由に心当たりがあるヴィンシュタットの住人たちは、きまり悪げな様子を見せる。忙しい理由は判り切っている。幽霊に(おび)えた自分たちが屋敷に奉公するのを拒んだせいだ。まだ幼さの残る少年二人を駆け回らせる原因をつくった事で引け目を感じてた市民たちは、せめて少年たちに好意的に振る舞う事で、その償いをしようとした。……やっぱり幽霊屋敷に行くのは嫌だし。


 お使いの(たび)に値段をまけてもらったり、ちょっとした食べ物などを貰う二人は、理由は判らないながら有り難く頂戴する事にした。ついでに噂話を取り次いだりする事で、意識しないままにオーガスティン邸と周辺住民の垣根を下げる事に寄与していた。


 揃いのお仕着せを着て健気に走り回る奴隷の少年二人は、ヴィンシュタットの隠れたアイドル――というよりマスコットか?――になりつつあった。

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