第六十八章 レプティリアンの兄弟 1.お目見え
本章は新キャラ紹介編みたいなもので、四話分あります。予め宣言しておきますが、腐な展開は今後もありません。
亜人の奴隷を購入……もとい、保護したとの連絡を受けてオーガスティン邸に転移すると、十歳になるかならぬかという年頃の少年二人と対面させられた。亜人の兄弟だという話だが……種族は何だ?
「奴隷商人の話じゃ獣人の一種だろうって事でしたがね」
「何だ? 随分と心許ない話だな?」
「どうも何人かの奴隷商人をたらい回しにされてたみたいで……」
たらい回し?
改めて二人に目を向けると、怯えとも諦めともつかない思いが瞳の奥に見え隠れしている。……虐待でもされていたのか?
「いえ、売り手は奴隷商人にしては奴隷たちを大事に扱っているようでした」
「虐待……ってぇより、扱いに困ってるって感じでしたね」
「……よく判らんな。原因は何だ?」
「やっぱり、種族が不明というのが拙いみたいでしたが」
「訊ねてみなかったのか? あ、言葉が通じんのか?」
「いえ……そういうんじゃなくって……」
埒が明かんので、俺は二人に出身地について聞いてみたんだが……
「「卵の時に連れて来られたんで判りません」」
卵!?
どういう事だとカイトたちを見たんだが……。
「この子たち、爬虫人らしいんです」
爬虫人?……そう言えば、皮膚は肌理細かいんだが妙な光沢があるな……所々に見えるのは痣かと思っていたんだが、鱗の大きいやつか? 一見したところ普通の人間に見えたんだが……いやはや……。
「爬虫人の町だか国だかが何処にあるのか、知ってる者はいるか?」
全員が首を横に振った。
「つまり……珍し過ぎて誰も手を出さなかったのか?」
「あと、寒い場所だと眠っちまったり、動きが鈍ったりするらしいんで」
うわぁ……。
誰も彼もが扱いかねた結果、奴隷商人をたらい回しにされたわけだ。無駄飯食らいみたいな暴言を吐かれた事もあったかもしれない。本人に落ち度はないのにな。それであんな……諦め切ったような眼をしているのか……。
「何か仕事の経験はあるのか?」
そう聞くと、二人とも哀しそうな表情で首を横に振った。
よくよく訊ねてみると、卵から孵ったばかりの頃は身体が小さかった――小型犬の赤ん坊くらいだったと聞いた時には耳を疑った――事もあって、ペット扱いされていたらしい。しかし爬虫人の成長は速いらしく、人間の子供と同じくらいの大きさに成長すると、飼い主に飽きられて奴隷商人に売られたらしい。押し付けられた形の奴隷商人も扱いに困ったらしく――種族特性がまるきり判らないんだから無理もない――珍獣枠で売る事に決めて、早い話が何も仕事を与えなかった。仕事を覚えないから付加価値もつかず売れない。困って他の商人に押し付ける。そんな境遇の繰り返しだったようだ。ちなみに今は八歳らしい。
仕事を覚える気はあるかと聞くと、二人とも懸命に頷いた。良い子のようだ。
とりあえずはカイトの召使いで良いだろう。名前を聞くと首を振った。
「「名前はありません」」
無い? それじゃ不便だったんじゃないかと聞くと、いつも二人一組で扱われていたので、さほど不便ではなかったようだ。……個人として扱われた事が無いのか。とことん不憫な子供たちだ。
……これって、俺が名付ける流れなのか? 建前上の主人になるカイトの方を見ると、目を合わせようとしない。他の四人は黙って見ている。少年二人は……あぁ、期待するような眼でこっちを見ている。これは逃げられそうにないな……。
しかし、兄弟の名前なんてそうそう……兄弟?
「……ちょっと待て。卵の時に攫われたんなら、兄弟という確証はないんじゃないか?」
「はい。でも、ずっと二人でいましたから、先に孵った僕が兄です」
あぁ……そういう事ね。
しかし、兄弟の名前と言われても……曾我五郎と十郎は敵持ち、源頼朝と義経は兄が弟を殺し、真田信之と幸村は敵味方に分かれ、徳富蘇峰と徳冨蘆花は絶縁……いかん。海外では……かの鉄仮面がルイ十四世の異母兄弟……って、幽閉されたようなのを出してどうする。グリム童話で有名なグリム兄弟がヤーコブとヴィルヘルム、ルードヴィッヒ……って三人か。ライト兄弟がオーヴィルとウィルバー……空を飛ぶのに執着した兄弟だよな……。伯夷と叔斉は意地を張って飢え死に……
……いっその事、単純に語呂で決めるか。呼びやすいのは短い名前だから……もうハクとシュクでいいか。
命名に至った経緯には触れず、俺の故郷で有名な兄弟の名前から貰ったと言って――嘘ではない――兄をハク、弟をシュクと名付けたら喜んでくれた。
「よし、ハク、シュク。お前たちはこれからこのカイトの身の回りの世話をするんだ。どうすればいいのか最初は判らんだろうが、それは皆が教えてくれるから、しっかり覚えて立派な従者になれ。焦る必要はないが、怠けるのは許さんぞ」
「「はい!」」
幼い二人の声が揃った。
クロウは知らないようですが、本来伯という字には長や長兄という意味が、叔という字には年少者とか、弟のうちで年下の弟(あるいは三番目――伯・仲・叔・季の順――の兄弟)という意味があります。また、鉄仮面の正体については様々な異説があるようです。




