第六十七章 亜人たち 4.亜人たちの困惑
クロウが去った後に取り残された三人は困惑の色を隠せなかったが、やがておずおずという感じでダイムが問いかける。
「な、なぁ、精霊術師様は、本気でテオドラム王国を敵に回すおつもりなのか?」
「……あのご様子じゃ、多分、既に敵に回しておいでだな。何をなさったのかは判らんが……」
悟ったような諦めたような声でいうホルンに、やや腰が引けている二人。
「……それも含めて情報を得る必要があるな。我々が直接あの国に潜入するのは危険が大き過ぎる。商人か冒険者の伝手を頼るしかあるまい」
「……確か、マナステラにエルフの行商人がいたな」
「ああ、そのエルフなら知っている。……彼に頼んで商人から情報を得てもらうか」
「しかし、商人に何かを依頼するには対価が要るぞ?」
「商人が欲しがるもので我々が提供できるものと言えば……」
考え込む二人に、複雑な表情でホルンが答える。心当たりがある、と。
「精霊使い様から譲って戴いた丸玉の装飾品に、商人どもは興味を持っているようだ。……正直に言って、アレに対する女たちの執着は並々ならぬものがあるから説得できるかどうか自信はないが……とにかく……話だけは通してみる……」
虚ろな目をして話すホルンの様子に、他の二人も引き気味で応じる。
「あ、あぁ、宜しく頼む。こっちでも薬草か何か、対価になりそうなものを用意しておく」
「そ、そうだな。俺たちも毛皮か何か、使えそうなものを探してみる」
ホルンの様子にドン引きはしたものの、今はそんな事に構っていられないと怯み気味の自分を叱咤して、トゥバが話を進める。
「……と、とにかくだ、連絡を取らねばならんのは商人だけじゃない。各地のエルフや獣人たちに、早急に話を通さねばならん」
トゥバの言葉にホルンも気を取り直して話に参加する。
「トゥバ、マナステラとモルファンのエルフへの連絡はそっちに頼めるか。俺はイスラファンのエルフに連絡を取ってみる」
「獣人たちへの連絡は俺たちの方でやろう」
「それはともかく、各村のエルフや獣人が集まる場所を決めておいた方がいいと思うんだが」
「そうだな。だが、どこにする?」
「エルギンの町でよかぁねぇか? 商人の出入りも多いし」
「エルギンと言えば……」
「あぁ……そう言やぁ若様の件があったな」
頷き合うホルンとダイム。距離の問題で奴隷解放戦に参加できなかったトゥバも事情は知っているようだが、些か残念そうでもあった。
「エルギンだと何か問題があるだろうか?」
ホルンとダイムが顔を見合わせる。
「別に問題は無いと思うが」
「王国のやつらがうろちょろしてるが、別段ちょっかいはかけてこないしな」
「ならいいか」
ただでさえ亜人の出入りが多い上に火種となりかねない元貴族の少年がいるエルギンで、よりにもよって国家転覆の会合を開くという。王国の面々が聞いたら頭を抱えそうな事をあっさりと決めて、この日の相談は終わった。




