第六十七章 亜人たち 2.亜人たちの怒り
その日、クロウはただならぬ様子のホルンから呼び出しを受けた。きわめて重要な件について話し合いたいので、是非とも都合を付けて欲しいとの事だった。
指定された場所へクロウが出向くと、そこにいたのは……。
「ほほう。ホルン、お前一人とばかり思っていたが、連れがいるようだな。……つまり、それほど重要な事態という事か?」
そこにいたのはホルンの他に二名。迷いの森で会ったトゥバというエルフの男と、もう一人、若い獣人の男がいた。
「勝手な事をして申し訳ありません。ですが……今回は以前にも増して深刻な状況なのです。下手をするとエルフや獣人の全てを巻き込んでの戦にも……」
「前置きはいいから説明しろ。いや、その前に……そちらとは初対面だったな?」
クロウは素知らぬ顔をして「初対面」の相手――以前にエルギンでドラゴンの革を売りつけた、エドラ村のダイムという獣人――に声をかけた。まぁ、あの時は変装してラスと名告っていたから、初対面と言えない事もないのだが……。
ダイムの方はと言えば、こちらも明らかに気づいている様子で、目をぱちくりとさせながらクロウとホルンを代わる代わる見やっていたが、クロウが声をかけると一瞬躊躇して、意を決したように挨拶した。
「……よろしく。エドラの村から来たダイムという……いいます」
「ダイムか。ホルンから聞いていると思うが、俺はクロウ。人見知りなので、エドラ村の獣人との連絡役は、お前一人に頼みたい」
「……承知しました」
白々しい挨拶を交わした後で、クロウはホルンに問いかけた。
「……で? ホルン、何があった?」
「は……ヤルタ教の使いの者がエルフに接触してきました」
意外な言葉にクロウは眉を上げたが、そのまま黙って視線で続きを促す。
「使いの者が言うには、テオドラム王国が……エルフや獣人を忌まわしき魔術によって傀儡とし、使い捨ての兵士としていると……」
口にするのも悔しいのだろう。ホルンの声は震え、手は白くなるまで、いや、爪が食い込んで血が滲むまで握りしめられている。他の二人も同様らしく、口を閉じても隠せないほどの怒気を放っている。
クロウは目を閉じて考え込んでいたが、やがて顔を上げると問いかけた。
「……それで、どうすると言うんだ?」
クロウの静かな問いかけに、ホルンは珍しくも激昂して言い募る。
「このまま放っておく事はできません! ただちに仲間を集めて囚われた同胞を解放すべく、テオドラムへと……」
「止めておけ」
冷然と、しかも厳然と言い放ったクロウに、信じられないという表情を向ける三人の亜人。しかしクロウは淡々と言葉を紡いでゆく。
「言いたい事は山ほどあるだろうが、しばらく黙って話を聞け」
有無を言わせぬ迫力に、三名は息を呑み、そして頷く。




