第六十七章 亜人たち 1.ヤルタ教教主の思惑
「……間違いのない話であろうな」
「一応、裏はとってあります」
王都イラストリアにあるヤルタ教中央教会の一室で、教主ボッカ一世は一人の男から報告を受けていた。テオドラム王国が接触してきたその日のうちに、隣国テオドラムに調査のために送り込んだ腹心の一人である。
「亜人奴隷を傀儡化して、使い捨ての戦闘員とするとはな……」
「魔力持ちの少ないテオドラムなればこそ、対魔術戦の一環として研究していたのでしょう」
教主は腹心の男に目を遣って問いかける。
「そなた……名案だと思うかな?」
「……正直に言って、判りません。亜人どもに同情するつもりはありませんが、何とも割り切れぬと言うか……気分の良い話ではありません」
「で、あろうな。生者を対象にした死霊術のようなものじゃ。生命ある者として、気持ちよく感じるわけがない」
教主はばっさりと断言する。そしてその見解は、腹心の男が感じていた嫌悪感を見事に説明していた。
「テオドラムはこの……傀儡を、どこに対して使うつもりでしょうか?」
「決まっておろう。イラストリア王国じゃよ」
「……我らの事など眼中に無いと?」
「別に民を皆殺しにするつもりではあるまいがな。気を遣うつもりもまた無いであろうよ」
「猊下……如何致しましょうか?」
「人間同士が争うなどと、ヤルタ神のご意志に叛く愚行じゃ。まして亜人を人間に嗾けるなど言語道断。許される行ないではない」
「……」
「じゃが、我らの信者をテオドラムに嗾けるのもまた詮無き事。ならば、この件は然るべき筋に流すのが最善であろう」
「……王国に注進しますので?」
ここで初めて教主は嗤いを浮かべた。
「いや、エルフたちに教えてやるがよい。神敵同士潰し合ってくれるであろうよ」
ちょっと短いので、本日はもう一話投稿します。




