挿 話 銀杏(ぎんなん)
マンションの自室でうちの子たちとテレビを見ていたら、突然キーンが嫌そうな声で話し出した。
『マスター、あの臭い実って、こっちにもあるんですか?』
画面を見ると、公園に植えてある公孫樹の木から落ちた銀杏が地表に散らばっているシーンだった。
『……キーン、向こうの世界にも公孫樹が生えてるのか?』
『公孫樹っていうんですか、あの木。実は臭いし、変な味がするし、誰も食べませんよ?』
『キーン……あの実は……有毒……ですよ?』
『うぇ~っ、少し食べちゃいました』
『その様子じゃ、ハイファも知らないのか? 銀杏……公孫樹の実は食用だぞ?』
『!?』
『嘘っ!?』
嘘なもんか。
『まぁ、こっちの公孫樹と同種かどうかは見てみないと判らんが……明日にでも現場に行ってみるか。キーン、案内を頼めるか?』
『はいっ! 食べ物とあれば、お任せ下さいっ!』
うん……キーン、お前っていつも本当にブレないよな。
・・・・・・・・
キーンの案内で辿り着いた場所に生えていたのは紛れもなく公孫樹――ちゃんと鑑定したから間違いない。果肉の中にある種子も大ぶりだ。早速拾って帰るとしよう。
『うぇぇ……やっぱり臭いよぅ……』
『ますたぁ、本当にぃ、食べられるぅ?』
『見た感じでは、とてもそうは思えませんな……』
『あぁ、食べられるぞ。正確に言うと、臭い果肉の中にある種子を食べるんだ』
『なるほど……種子を……食べるの……ですか』
『あぁ、果肉には皮膚炎を起こす物質が含まれているから、直に触れるなよ』
俺はゴム手袋を持ってきたから、ひょいひょいと摘んでバケツに入れていく。
『果肉は……どうやって……取り……除くの……ですか?』
『水に浸けて腐らせるのが普通だな』
尤も、今回はそんな手間のかかる方法はとらないけどな。お馴染みの錬金術を使えば、さっさと種子だけ取り出せる筈だ。
・・・・・・・・
案の定、錬金術で種子だけ取り出す事ができたので、やはり錬金術で乾燥させた――最初は乾燥させ過ぎて失敗したが――ものを、塩と一緒に紙袋に入れて電子レンジで加熱する。種子がはじけた後で取り出して皆に振る舞う。
『ちょっと癖があるけど……美味しいですね、主様』
『臭くなぃ、ですぅ』
『マスター、マスターの国の人って、よくあんな臭いものを食べようなんて思いましたね』
『しかし、中々乙な味ですぞ』
『驚き……です』
好評なようでよかったよ。けど……
『ビタミンを破壊する成分が含まれているから、食べ過ぎないように注意しろよ』
皆の健康のために、一言注意はしておかないとな。
明日は本編に戻ります。




