第六章 空へ 1.解析
クロウは自分の機動力の無さを懸念し、空を飛べないか模索しますが……。
「還らずの迷宮」および「流砂の迷宮」の記録映像は、じりじりと留守番していたうちの子たちに大いに受けた。特に、あの馬鹿勇者が二度にわたって大ポカをやらかす――石油の炎上と粉塵爆発――くだりは、何度も繰り返して上映された。その一方でキーンやその他のスキンクたちは、同じように火魔法を使うせいか、笑い転げながらも考え込んでいる――考えが爆笑で中断されるというのが正しい――ようだった。
俺はといえば、自分の魔法の貧困さがやはり気になっていた。
『ますたぁはぁ、ダンジョンのスキルがぁ、あるじゃなぃですかぁ』
『いや、確かに防御はダンジョンのスキルで何とかなるし、攻撃はお前らが良くやってくれる、それはいいんだが』
『何がご不満なのでございますか? ご主人様』
『機動力だ。一度行った場所なら、「壊れたダンジョン」のスキルで目印を設置しておけば瞬間的に移動できる。だが、そうでない場所への移動がな……。体力は確かにアップしているが、だからといって体力任せに長距離を走って行くのも大変だし、第一、悪目立ちするだろう?』
『それは確かに……』
『でな、「還らずの迷宮」で女の魔術師――マリアといったか――が使って見せた飛行の魔法が気になってな』
『飛行魔法の習得をお望みという事でございますか?』
『魔法でなく魔道具でもいいんだが、どうすればいい?』
『遺憾ながら我々には飛行魔法の才がございません。こういう時は……』
『あぁ、困った時の爺さまだな』
・・・・・・・・
『それで儂の所へ来たわけか』
『あぁ、知恵を貸してくれないか』
『お主……よもや木が空を飛べるなんぞと考えてはおらんじゃろうな?』
『そこまで都合のいい事は考えちゃいない。兎にも角にも、考えを進めるためのデータが全くないんだ。参考になりそうな事なら何でもいい』
『ふぅむ……空を飛ぶのは「フライ」という魔法だったはずじゃ。属性魔法ではなく無属性の魔法だったように聞いておるが……すまんな、どうも記憶が曖昧じゃ。ただ、無属性魔法の使い手は多くなかったように思う。内訳としては、どちらかというと人間に多かったはずじゃ。エルフは魔法が達者じゃが、属性魔法を好む者が多いでのぅ』
『他には? 何でもいい』
『うぅう~む……確かフライの魔法では、少なくとも初心者のうちは長く飛べんと聞いた事がある。修得者が少ないせいもあって、飛竜などを乗り回す者の方が多いようじゃな。あとは……どこぞの王家が転移陣を秘蔵しておるとか聞いた憶えがあるな』
『おぉ……飛竜をテイムできるのか……』
『うむ。お主は従魔術を心得とるのじゃろう? そっちの方が早くないか?』
『……いや、駄目だな。目立ち過ぎる。目立たず騒がず、密かに引き籠もるのが俺の基本方針だ。魔道具については? 聞いた事はないか?』
『むぅ……飛行の魔道具か……済まんが記憶にないのう』
『空飛ぶ箒とか絨毯とかないのか?』
『何じゃそれは? 聞いた事がないぞ』
・・・・・・・・
当てにしていた爺さまから役立ちそうな情報を貰えなかった俺は、次にロムルスの迷宮を尋ねていた。ロムルスとレムスは意識を共有できるので、片方に話せば通じるからな。
『なるほど、お話は解りました。しかしクロウ様、私たちダンジョンコアも空を飛んだりはできませんよ?』
『ダンジョン内にモンスターを誘致する事はありますが、さすがに飛竜を引き込む事はないです。ドラゴンをボスにしているダンジョンの話は聞いた事がありますけど……』
今の発言はレムスだな。あ、レムスには最初から念話で討議に加わってもらっている。
『いや、何でもいいからフライの魔法について知っている事を聞きたいというのと、ロムルス、お前、女魔術師が飛んでいたのを記録してるだろう。あの時の魔力の流れを解析できないか?』
『なるほど、それで私のところへ来られたのですか』
ロムルスが保存していた映像データを分析すると、面白い事が判った。飛行の魔法にはどうやら二つの魔力が関与しているらしい。魔術師の身体を覆う無属性の魔力と、魔術師の身体を動かしている風属性の魔力である。無属性魔法で身体を浮かせるか軽くするかした上で、風魔法に乗るようにして飛んでいるのではないかというのがロムルスの見立てだった。精霊樹の爺さまは無属性魔法だと言っていたが、無属性魔法だけじゃなかったようだ。なるほど、二系統の魔法が必要なら修得者も少ないわけだ。両方の魔法を同時に鍛えないといけないから、レベルアップもしにくいんだろう。
しかし、風魔法はまだ想像できるが、体を浮かせる無属性魔法って何だ?
たしかH.G.ウェルズの小説だったか、重力を遮断する物質を発明した科学者が月旅行を企てるという設定になっていたな。藤子不二雄もそんな設定の話を書いて……うん?
もう一話投稿します。




