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第六十五章 テオドラム 3.殲滅~annihilation~

「先ほどの音は何だったんでっしょう」

「さぁな。雷か何かだと思うが……いずれにせよ、先行した飛竜(ワイバーン)部隊から何も言って来ないんだから、特に危険はないんだろう」



 先遣隊の飛竜(ワイバーン)部隊に遅れる事約八時間。地上部隊を率いる先任の大隊長が副官と話していた。百頭もの飛竜(ワイバーン)からなる先遣部隊が、連絡一つ入れる暇もなく殲滅(せんめつ)されたなどとは、彼らの想像の埒外(らちがい)にあった。


 クロウとの交戦予定時刻まで、あと八時間を切っていた。



・・・・・・・・



『どうにか回収できたな。偽装工作の方は終わったか?』


 俺は土魔法持ちを率いているスレイとウィンに念話を飛ばした。


『はい、ご主人様。クレヴァスの面々とウィンの子供たちが参加してくれたので、何とか終わりました。乱れた草木は元のように戻しましたし、飛び散った肉片などはスライムたちが吸収して、血痕は水魔法で洗い流しましたから、よほど鼻の利く犬でも連れていない限り大丈夫と愚考いたします』

『よし。接敵まであと三時間ほどある。全員船内に戻って、軽食を摂った後で一休みしよう』

『マスター、メニューは何ですか?』

『時間もないし、そう()ったものはできんぞ? カップ麺とジュースにフルーツサラダくらいか?』

『美味しそうですぅ』



・・・・・・・・



「おい……前方に見える山のようなものは何だ? 地図には載ってないようだが」

「……少々お待ち下さい。案内の者に確かめて参ります」

「そうしてくれ。コースを間違えていたとしたら一大事だ」



・・・・・・・・



提督(アドミラル)、敵の行軍が止まりました』

『まぁ、見慣れない山が見えてきたら普通は止まるよな。なぜか飛竜(ワイバーン)部隊の連中は、地図の間違いと決めてかかったようだが……』

『どうしますか?』

『このまま様子を見よう』



・・・・・・・・



「ただ今戻りました。冒険者が言うには、ニルへの道には山など無いそうです」

「じゃあ、あれは何だ? 幻だとでも言うのか?」

「その可能性もあるとか」

「なに?」

「光の加減で、遠くにある筈のものが近くに見える事があるそうです。山の形もぼんやりとしか見えませんし、その可能性もあると」

「他の可能性は?」

「道を間違えたか、何らかのモンスターが幻覚を見せているか」

「……警戒しつつこのまま進もう。先遣隊は既に先に進んでいるんだ。今更逆戻りする時間はない。今回の作戦計画に、曖昧な理由で遅延は許されん」

「本国に報告しますか?」

「何も起きていないのに、何を報告するつもりだ?」



・・・・・・・・



提督(アドミラル)、敵が行軍を再開しました。進むペースが若干落ちたようです』

『よし、今回の戦術目標は敵の殲滅と報告の阻止だ。今回も采配はお前に任せる。全兵装使用自由(ウェポンズ・フリー)

『アイアイ、サー。距離二万で通信妨害(ジャミング)を開始します。攻撃は主砲および両用砲で。状況を見て、距離二万から一万五千で発砲します』

『宜しい』



・・・・・・・・



「やはり、どう見ても岩山だな……」

「光の加減とかじゃありませんよね……。どうします?」

「ここまでの行軍記録をチェックしても、道を誤った可能性はない。つまり、目的地に行くためにはこのまま進むしかないという事だ。先遣部隊が異常を知らせてこなかった以上、このまま進む。作戦の遅延は許されんからな」

「モンスターの可能性もありますが……」

「あの山全体がモンスターだとでも言うつもりか? あり得んだろう。だが、一応警戒はしておこう。投弾機中隊に即応態勢を命じろ」



 侵攻部隊の指揮官がそう命じた直後、死神の咆吼(ほうこう)(とどろ)いた。



「何だっ!? 今の音は。雷か?」

「大隊長っ! 後続が!」



 副官の声に振り返った指揮官が見たものは、爆煙が(たな)()く荒れ地に散乱する、殿(しんがり)を護っていた筈の歩兵部隊の残骸であった。頭が状況を理解するより早く、後続の部隊に何が起こったのかを指揮官はその身で体験する事になった――その時には既に彼の意識と生命は失われていたが。


 テオドラムの侵攻部隊二個大隊四千名弱。彼らの頭上に降り注ぐのは、六インチ砲と五インチ両用砲各十二門の榴弾(りゅうだん)および焼夷(しょうい)榴散弾(りゅうさんだん)。爆風で引き裂かれ、吹き飛ばされ、散弾に貫かれ、爆炎に()かれ、轟音に怯えた馬に振り落とされ、踏み潰され、物言わぬ(むくろ)に変えられてゆく。歩兵や弓兵、投弾兵が真っ先に狙われ、轟音に怯えた馬が逃げ去った後で、残された騎兵の命が刈り取られてゆく。


 それでも、混乱のさなかに情報を伝えようとする者もいたが……。



「本部っ! 本部っ! 応答してくれっ! ……畜生っ! 繋がらねぇっ!」

「あの岩山だ! あの岩山から撃ってきている!」

「糞っっ! こっちにゃ隠れるところも無ぇってのに」

「無かった筈の岩山に潜んで、特大の火炎弾をぶっ放してきやがる!」

「やつらは何者だ……」

「あれって……まさかダンジョンじゃないだろうな」

「ダンジョンっ!?」

「そう考えれば辻褄(つじつま)は合うが……」

「何としてもこの情報を本部に――っ」



 一発の砲弾が、彼らの努力を終わらせた。



・・・・・・・・



『どうやら終わったな』

『……凄まじいものですな』

『あぁ、俺の世界の戦は大体がこんなもんだ。正直、楽しいもんじゃないが、戦争なんて食うか食われるかだからな。下手な仏心(ほとけごころ)を出したらこちらが食われるだけだ。さて、後始末をせにゃならんが……』

『……コレ、全部片付けるんですか、マスター……』

『テオドラムの……二個大隊……ですから……確か……四千名弱……』


 ……うん、無理。


『面倒だから、ここら一帯をダンジョン化して、一気に屍体を取り込む。そのままダンジョンとして維持するか、解除して元に戻すかは、後で考えよう。四千体の屍体なんぞ一々回収してられん』

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[気になる点] 先遣隊の飛竜ワイバーン部隊に遅れる事約八時間。地上部隊を率いる先任の大隊長が副官と話していた。百頭もの飛竜ワイバーンからなる先遣部隊が、連絡一つ入れる暇もなく殲滅されたなどとは、彼らの…
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