第六十五章 テオドラム 2.対空砲火~antiaircraft fire~
『提督、魔導レーダーに感あり。反応は前回の飛翔体と同一。飛竜のようです。ただし、その数はおよそ百体』
クリスマスシティーからの報告が、この戦いの幕開けとなった。
『先遣隊のお出ましか……。距離千から通信妨害を仕掛けろ』
クロウは物憂げに応じると、クリスマスシティーに改めて命令する。
『さてクリスマスシティー、対空戦の初陣だ。生憎相手は零戦じゃないが、対空能力を増強されたお前の本分、見せてもらうぞ』
そう言うと、クリスマスシティーが微かに笑ったような気配がした。
『対空戦の采配はお前に任せる。全兵装使用自由。俺からの命令は一つだけ。一兵一頭たりとも生かして帰すな』
『アイアイ、サー。距離五百まで引きつけて、四十ミリと二十ミリで対処します』
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先遣隊としての任務を任された飛竜兵たちは、眼前に現れた岩山を前に困惑していた。自分の記憶違いかと思った飛竜兵の一人は、魔導通信機を使って同僚に確認する。
『おい……進路にあんな岩山があったか?』
『いや、地図には載ってなかった。冒険者ギルドも、いい加減な地図を寄越さないで欲しいよな』
『あ……地図の間違いなのか』
『地図じゃなければ地形が間違ってる事になるぞ? そんな筈が無いだろうが』
『いや……航法の間違いなのかと……』
『単に北に飛ぶだけなのに、どこに間違う要素があるんだよ』
『それもそうだな』
同様の会話は、この時あちこちで交わされた。これが地上部隊なら、道案内として同行している冒険者がすぐに異常に気付いた筈だ。誰かが地上部隊と交信する事を試みていれば、やはり異常はすぐに発覚したろう。
しかし実際には、飛竜部隊は通話傍受を恐れた作戦本部によって遠距離通話を制限されており、道に迷ったと誤解されるのを飛竜部隊の指揮官が嫌がった事もあって、岩山の件は報告されなかった。飛竜部隊の運命はここに決まった。
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『距離六百五十……六百……五百五十……発射!』
飛竜隊の先頭が距離五百に達したタイミングで、死神の哄笑が響いた。
「うわぁっ!」
「何だこれはっ!?」
「誰かっ!」
悲鳴と怒号が飛び交う中、空中に紅い小さな雲が生まれては散ってゆく。四十ミリ機関砲の掃討射は飛竜の身体を引き裂き、二十ミリ機関砲弾が身体に穴を穿ってゆく。頭を回らせて脱出しようとした飛竜が別の飛竜と接触して落下する。低空、あるいは高空に離脱しようとしても、二十八門の四十ミリ機関砲と十門の二十ミリ機関砲がそれを許さない。
十分と経たぬうちに、空からは飛竜の姿が消えていた。
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『クリスマスシティー、地上部隊との接触までの時間は?』
『敵の先頭が射程に入るまで、およそ八時間と推定します、サー』
『それだけあれば充分だな。俺は一旦外に出て、屍体の全てを回収する。土魔法持ちと木魔法持ち、水魔法持ちは戦闘の痕跡を消してくれ。キーンは俺の、他の火魔法持ちは皆の護衛を頼む』




