第五章 ダンジョン 6.バレン男爵領冒険者ギルド
少し短いですが、第五章最終話です。
ダンジョン調査に向かった勇者と冒険者のパーティが、いずれも五日を経ているのに戻って来ないという知らせが届いて以来、冒険者ギルドは大騒ぎになっていた。
「勇者の若造は力ばかりの駆け出しかもしれんが、ニールたちは二十年以上この稼業で飯を食ってんだ。下手を打つとは思えねぇ」
「だが、実際にどちらのパーティも音沙汰無しだ。何かあったとしか思えん」
「何かってなぁ何だよ」
「それが判らねぇから苦労してるんだろうが!」
「だからどうするって話だろうが!」
「静かにしろ! ともかく何があったのか知らなきゃ対策も立てられん。追加依頼を出す。依頼内容は消息を断ったパーティの調査だ。ダンジョンの危険度が判らん現状では指名依頼は出せんから、その分報奨金をはずむ」
無駄に騒ぐ時間はないとばかりに、冒険者上がりらしいギルドマスターが、議論というのは名ばかりの口喧嘩を切り捨てる。
「でもギルドマスター、調査と言っても内容はどうするんですか?」
「ダンジョン内への進入は禁止する。確認すべきは、第一に行方不明のパーティがダンジョン内に入ったかどうかの確認、第二にダンジョンから出てきた痕跡があるかどうかの確認、第三に他の出入り口がないかどうかの確認、最後に周辺のモンスターの棲息状況の調査だ。ダンジョン外で殺られた可能性も無視できんからな」
「もしかしてスタンピードの可能性も……」
「杞憂ならいいが、考えておいても無駄じゃないだろう」
再度調査に派遣したパーティが持ち帰った報告は、冒険者ギルドとしては好ましいものではなく、しかも困惑させられるものだった。
「どちらのパーティもダンジョン内に入ったのは確実、しかし出てきた形跡はない、他の出入り口も確認できず、か……」
「モンスター達の棲息状況にも、別段変わったところはないようです」
「という事は、だ。どちらもダンジョン内で殺られたと考えるべきなんだろうな。なのに、どんなダンジョンなのかはまるで判らん、と」
「少なくとも危険度は引き上げるべきです。勇者とBクラスのパーティが全滅したと考えるのなら、最低でもAクラス、場合によってはSクラスでもおかしくありません」
「とりあえず、許可なくダンジョン内に立ち入るのは禁止する。捜索も調査も中止だ」
「ニールたちのパーティはともかく、勇者の若造たちが全滅したとなると、例のクソ教会がうるさく言ってきそうですな」
「全滅したという確認はとれておらん。鋭意捜索中だ」
「ダンジョン内を捜索しろと言ってきたらどうします? 領主のクソ男爵も同じ穴のムジナです。圧力をかけてくるかもしれません」
「まず、神の恩寵を受けた偉大なる勇者が、ダンジョンふぜいに遅れを取ったとは思えない、何らかの理由があってダンジョンを離脱し、独自の行動を取っていると思われる、なので現在はダンジョン周辺に捜索の網を広げている、と言っておけ」
「ギルドマスターともなると、頭も舌もよく回りますな。それでもダンジョン内の捜索を強硬に主張した場合はどうします? ダンジョンってのは、事によっちゃあ金の卵を産むアヒルみたいなもんですからな。詰みかけた貧乏領主としちゃあ内部の調査をうるさく言ってくるんじゃないかと」
「偉大なる勇者が遅れを取ったほどのダンジョンに、卑小なる冒険者では力不足だ、信仰篤き領主様の勇敢なる騎士団のご出馬を乞う、と言ってやれ」
「ははは、かしこまりました」
とりあえず当座の方針が決定したところで、ギルドの若い事務員のような男が、そう言えばという感じで問いかける。
「ギルマス、ダンジョンの名前はどうします? 最低でもAクラスとなると呼び名が必要ですが、二つあるので『モローのダンジョン』じゃどっちがどっちか紛らわしいです」
「うん? 『モローのダンジョン』って、以前に若造に討伐されたんじゃなかったか? 同じ位置にあるのか?」
「いえ、前のダンジョンを挟んで東西にあるようですね。旧『モローのダンジョン』との関係は不明ですが、『モローのダンジョン』は典型的なダンジョンだったようですから、直接の関係があるとは思えません」
「ふむ……そうだな、勇者が入った方を『還らずの迷宮』、ニールたちが入った方を『流砂の迷宮』と呼ぶ事にしよう」
明日は次の章に入ります。




