第六十二章 テオドラム 4.ピット
「……それはまた、凄まじい屋敷を見つけたもんだな……」
通話の魔石で二人から事情を聞いたクロウはさすがに絶句する。
『けど、他に手頃な物件は見つかりそうになかったですぜ』
「のんびりしている時間はない。そこに決めよう。代価はいくらだ?」
『それが……』
『こいつがまたびっくりするような値段でしてね』
『貴族の屋敷としてもかなり広い敷地で、金貨三十枚だそうです』
金貨三十枚……って、土地込みで三百万円か!? あり得ない値段だな……。
『どうも、屋敷が倒壊する前に処分したいというのが本音のようです』
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、ダンカン。倒壊って……人が住める場所なの?」
魔道具による通信に割って入って来たのは魔術師のマリアだ。
『ああ。造りはしっかりしてるし、贅沢な家具付きだ』
『所々にアクセント代わりの血糊がくっついちゃいるがな』
『ま、住むのはカイトだし、気にしないだろう』
「おい……やっぱりイカレた御曹子ってなぁ俺の事かよ……」
『他に適役がいねぇだろうが』
『カイトは演技とか腹芸には向いていないしな』
「そうね。エキセントリックな御曹子なら地でやれそうだしね」
「……」
「お前ら……」
賢明にも沈黙を守ったのは治癒術師のフリンか。まぁ、雇い主としてはパーティが不和になっても困るし、ここらで割って入るとするか。
「まぁ、あれだ。怨霊の類がいても俺の死霊術で鎮めればいいし、怨霊をものともしない肝の据わった若い貴族って事で評判になるかもしれんぞ」
「そうスかねぇ……」
『ご主人様としては……評判に……なっては……拙いのでは?』
あ、それもそうか。
「まぁ、カイトがあまり目立ってもご主人様に迷惑がかかるし、その辺はほどほどにする事ね」
「ではまぁ、屋敷の購入および生活雑貨類の手配は頼むぞ。お前達はカイト坊ちゃんの護衛兼お目付という事で住んでもらうからな。皆、テオドラムに知人はいないと思うが……もし見かけたとしても、かなり外見が変わっているから多分気付かれんだろう」
意図したわけじゃないんだが、こいつらをアンデッド化したら皮膚や髪の色、目の色が薄くなって、金髪碧眼の北欧風に変わったんだよな。筋肉も少し落ちて、壁役だったダンカンなぞはかなり体格が変わった――筋力は落ちてないんだが。ギルに至っては頬の刀傷が綺麗さっぱり無くなってるし、全体的に五~六歳ほど若返った感じになってるしな。これはニール率いる冒険者パーティも、ダバルも同じだから、アンデッド化の特徴なんだろう……少なくとも俺の死霊術では。
『では、明日にでも手続きに向かいます』
「頼む。当座の費用は先に渡した分で賄ってくれ」
工作資金としては、ピットの地下の金鉱から掘り出した金塊をわざわざマナステラまで出かけて換金して、得た金貨のうち百枚ほどを袋に詰めて渡しておいた。痕跡をくらますためにはこれくらいの苦労はしないとな。
「閣下、それでは荷物――その実はダンジョン――の発送手続きに入ってよろしいですか」
話が一段落ついたところで、ダバルが話に参加する。発送するダンジョンは、木箱に似せたものを既に準備してある。
「あぁ、送り先の住所はダンカンかギルに聞いてくれ。箱の中身は……何でも構わんから適当に見繕ってくれ」
「あ……だったら、酒を頼めませんかね」
「酒か……送る荷物としては不自然ではないな?」
「そうですね……割れるのを防ぐため頑丈な木箱に入れる理由にもなりますし、問題ないでしょう」
「だったら、多少値が張っても構わんから、貴族に相応しい品を送ってくれ」
「待ってましたっ!!」
「カイトっ! いい加減にしなさいっ!」
まぁ……エキセントリックな御曹子を演じるには適役だと思う事にしよう。




