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第六十一章 エルギン 6.エルギン~町中にて~

「結構賑わってんなぁ」

「エルギンはノーランドからバンクスに至る街道の重要な中継地点だからな。その上、代々の領主が亜人融和策を採っているために、エルフや獣人の出入りも多い。彼らからの物資や情報が集まってくるから、農業生産以上に豊かな領地だ……って、クルシャンク、お前、以前は冒険者をやってたとか言ってなかったか? この町に初めて来たような口ぶりだが」

「あん? 以前ウチの大将も言ってたろ? この町はモンスターとかがいねぇから、狩人(ハンター)としちゃ旨味が少ねぇんだよ。護衛やってる連中は別だが、ソロだと護衛仕事が回ってくる事ぁ滅多に無ぇからな」

「そう言う事か……以前からお前の知識にムラがあるとは思っていたんだが……」

「おっ、いけそうなやつがあるぜ」

「昼間っから酒はやめとけ。一応、勤務中だぞ」

「任務ったって、もう済んだようなもんじゃねぇか。あとは似顔絵届けて終わりだろ?」

「届け終わるまでは任務完了じゃない。もう少し見て回るぞ」

「へいへい……そう言やぁ、冒険者ギルドはどうするよ?」

「あ~、顔を出すのが筋なんだろうが……」

「目立つなって言われてるしなぁ」

「……やはり今回は失礼しておこう。あとで大隊長から手紙か何かで非礼を詫びてもらえばいいだろう」

「そうだな、そうしとくか」



 他愛もない事を話している彼らの動向を、遠くから注視している一団があった。



「……王国軍の連中のようだな」

「国軍が若様に何の用事だ?」

「どうやら顔を確認したいだけのようだな」

「つう事ぁ……ここにいるのが王家にばれたって事だよな?」



 人間離れした視覚と聴覚で第一大隊から派遣された三人の同行を見張っていたのは、ここエルギンを根城にしている亜人の一団であった。ミルド神教の礼拝所に預けられた少年が、隣国マナステラの元貴族の遺児だという事は、薄々だが全員が気付いていた。彼らにしてみれば、亜人(じぶん)たちとの不協和が原因で粛清された貴族の遺児に対して、一種の負債を背負っているような思いがある。その安全を脅かしかねない王国からの密偵に対して、彼らが警戒心を抱くのは必然であった。



「どうしたもんかな?」

「俺たちは表向き何も気付いてない事になってるしな……」

「おい、『(ふさ)()』の旦那、何かいい知恵は無ぇのかよ?」



 「(ふさ)()」と呼ばれた獣人の男は、面白くもなさそうに答えを返した。



「本来はここにいる者だけで決められるような事じゃないだろう。各々の集落に話を通すのが第一だ」

「そんな悠長な真似をしてて大丈夫か? 王家が若様をどうにかする気なら……」

「多分だが、それはない。王家が若様を亡き者にするか拉致する気なら、少なくとも二個小隊が準備されるはずだ。第一大隊ならそのくらいの準備はする。町の外にも伏せ兵がいる気配はないんだろう?」

「ああ、あの三人だけだ。しかし……それなら王家の狙いは何だ?」

「繰り返すが、推測だぞ? 多分、ここにいるのが本当に若様なのかどうかを確かめたいんだと思う。考えてもみろ。元とはいえ隣国の公爵家だぞ? ()(かつ)に手を出した日には、どっちに転んでも火種にしかならん。王家にしても、()えて火中の栗を拾うつもりは無いだろうよ」

「なるほど……村に急使を送るくらいの時間はあるか……」

「恐らく、この町にいる限りはな」

「……どういう事だ?」

「こっちはなお頼りない推測、というより直感みたいなもんなんだがな……」

「勿体ぶってないで話せよ、『(ふさ)()』の旦那」

「多分だが……王家は亜人(オレたち)に気を(つか)ってる……あるいは警戒しているんだと思う」

「何?」

「ヴァザーリでの顛末(てんまつ)を知っていれば、亜人(オレたち)の扱いに慎重になるのは解るだろう? まして若様の正体を知っているなら、ここで下手に騒ぎを起こした場合、亜人(オレたち)がどう反応するか判らないんだろう」

「じゃぁ、この町にいる限り若様は安全か?」

「少なくとも、イラストリア王家は手を出さんと思うが……それも今後の状況次第だがな」

「とりあえず、村々には使いをすべきだろう。ここにいないエルフたち……シルヴァの森にも使いを送っておけよ」



 クロウに気付かれないようにという王国側の努力は、あっさりと無に帰せられようとしていた。

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