第六十一章 エルギン 1.イラストリア王国第一大隊
「あの人は今」イラストリア版です。
「おい、ウォーレン、地図を前にして、何を難しい顔で考え込んでんだ」
大隊の屯所に入るやいなや、机に向かって考え込んでいるウォーレン卿に声をかけたのはローバー将軍である。
「Ⅹの拠点の位置を推定できないかと思っているんですがね」
「Ⅹの拠点を推定ったって……奴さん、王国の北から南まで出没してるじゃねぇか」
「ええ。ですが、北のノーランドは恐らくヴァザーリ攻撃のための牽制でしょう。そのヴァザーリへの攻撃は亜人の奴隷を解放するためで、言うなれば場所の選択にⅩの好みが関与する余地はなかったと思われます」
「だが、それを言うならバレンやシルヴァの森も同じだろうが」
「ええ。ただ、ヴァザーリは他の場所から飛び抜けて離れていますが、バレンやシルヴァの森はむしろ同じ範囲に纏まっています」
「……シャルドはどうなる?」
「あそこは遺跡であって、実際にⅩが出没したわけではありませんよ?」
「ふむ……だとするとどうなる?」
ウォーレン卿は机に広げていた地図をローバー将軍の方へ回すと、各地点を指差しながら説明する。
「残りの地点、バレン、シルヴァ、モロー、それに、ドラゴンの咆吼らしきものが聞こえたという場所のうち、互いの距離が最も離れているシルヴァとモローの距離を、仮にⅩの行動範囲とします。その距離を直径とする円を地図上に描いてみると、円の中心に当たるのは……」
「……何も無ぇな」
「ええ。バレン領とエルギン領の境界付近ですね。最寄りの町はバレンかエルギンになります」
「……そのどちらかにⅩの拠点があるってぇのか?」
「そう短絡はできません。Ⅹがそう見せかけている可能性もありますから。……ただ、ここに挙げた場所でⅩが行動したのは事実。ならば、作戦行動に便利な町に何らかの足跡を残している可能性は捨て切れません」
「バレン、もしくはエルギンか……」
「どちらかと言えば、バレンの線は薄いでしょうね」
「なぜ、そう言い切れる?」
「別に言い切ってはいませんが……Ⅹにしても自分の拠点がある町であれほどの騒ぎを起こすとは考えにくいですから」
「残るはエルギンか……」
「ただ……だからどうするって話になるんですが……」
「何? 即行調べるんじゃねぇのか?」
「Ⅹは今のところ王国への敵対を示してはいません。しかし、ここで我々が下手にⅩの拠点を探るような真似をすれば……」
「藪蛇になる可能性があるか……」
「その場合、藪から出てくるのは蛇なんて可愛いものじゃありませんよ?」
「だな」
軍人二人は考え込む。下手に探りを入れるのも、黙って見過ごすのも、どちらにしてもリスクは大きい。ならば、当面できる事は……
「エルギンの冒険者ギルドにいる儂の悪友に連絡を取ろう。この一年くらいの間にエルギンの町で何か変わった事がなかったかを聞いてみるくらいなら、そうⅩを刺激する事も無ぇだろう」
読者の方の便宜を考えて地図にはクレヴァスとピット、エッジ村を示してありますが、ウォーレン卿が示した地図には描いてないものとお考え下さい。




