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第六十章 王都イラストリア 1.国王執務室(その1)

少し短いです。

 いつものように早朝の人気のない時間、いつもの国王執務室で、いつもの四人が――料理長心づくしの――軽食を片手に討議を行なっていた。



「ヴァザーリの(ちょう)(らく)はそれほどのものか……」

「はい。かつての賑わいは影も形もありません。奴隷商人だけでなく普通の商人までも、巻き添えを食うのを恐れて立ち寄りを控えた結果……」

「商取引は激減、ついでに税収入も激減、ってわけですな」

(ひと)()がないのはヤルタ教の教会も同じでして、立ち寄る信者もめっきり減ったようです」

「ふむ……ヴァザーリ伯爵の落日は自業自得として……我が国を訪れる行商人の数も減っておるのか?」

「いえ、ヴァザーリに立ち寄っていた商人は、それぞれ別の町へ向かったようです。リーロットとサウランドが当面の受け皿になったようですが……どちらかというとサウランドの方が賑わっているようです」

「それに関して一つご報告が」



 三対の目がウォーレン卿を見つめる。



「バンクスを中心に、テオドラム産の小麦の買い控えが起きています。代わりにマーカスやマナステラ産の小麦の取引量が増えており、マーカスとの交易の窓口であるサウランドでの取引量が増えた事が関わっているかと」

「ふむ? テオドラムの小麦は、品質は悪いが安さを売り物にして、それなりの取り引き量を稼いでいた筈だが?」

「安い代わりにとかくの噂がありましたからね。今回はその悪評を裏付ける情報が流れたことで、()(ざと)い商人達が一斉に手を引いたようです」

「悪評?」

「どういう事じゃ? ウォーレン卿」

「情報は二つ。第一は、テオドラムの小麦粉には、命に関わる毒物が混じっている事があるが、テオドラムの商人はそれを知った上で小麦を他国に売り(さば)いている、というものです」

「何じゃと!?」

「事実なら信義にもとる行ないではないか!」

「しかし、ウォーレン、その噂が流れているのは王都じゃなかったか? バンクスってのは、どっから出て来た?」

「当事者の一方、毒麦を持ち込んで調べてもらった方が、バンクスに来ていたマナステラの商人だったようです」

「するってぇと……」

「今頃はこの噂がマナステラにも届いているでしょうね」

(わし)が聞いた話じゃ、毒麦を持ち込んで裏を取ったとかいってたが?」

「学院の方に問い合わせが来たそうです。毒麦とか悪魔の爪として記録されているのがそれらしいとか。ただ、学院の方でも毒麦の正体がカビの仲間だという話は記録がなかったそうで、どこから出た話なのかを知りたがっていました」

「ウォーレン卿、テオドラムの商人が毒と知って売り(さば)いていたというのは確かなのか?」

「毒麦は一見したらすぐに判ります。テオドラムの商人が(かたく)なに小麦粉だけを扱い、小麦そのものを扱ってこなかったのが、証拠と言えば証拠でしょう」

「……国がそれを後押ししたという話ではないのだな?」

「積極的に後押ししたかどうかまでは判りかねますが……」

「あの国なら黙認するぐれぇの事は平気でするでしょうな」



「……ウォーレン卿、話が二つあるような口ぶりであったが?」

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