第五十七章 テオドラム 4.冒険者
序幕の場面はテオドラム王国軍中央作戦本部。
「ダンジョンへ放った斥候隊が戻らない?」
「はい。最終報告で異常無しと送ってきて、そのまま……」
「最後に報告を送ってきたのは……ここか、ダンジョンから五分ほどの位置だな」
「予定通りなら、ダンジョンから二分ほどの位置に接近した時点で再び連絡がある筈でした」
「その三分間に何かがあったんだろうな。我がテオドラムの斥候兵五名が、何の連絡もなく消息を絶つような事が……」
「再度斥候を送りますか?」
「いや、対策も考えずに斥候を送っても、二の舞を演じるだけだ」
「では、このまま放っておくと?」
「別に我々王国軍だけが働く必要はないだろう? ニルの冒険者ギルドに依頼を出すさ」
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二幕目の場面はテオドラム王国の北部、ニルの町の冒険者ギルド。
「王国軍からの依頼だと?」
「はい、中央作戦本部の名前で、ピットの調査を」
「馬鹿言え! あそこが危険だと報告したのはこっちだぞ! 無能な兵隊どもの尻拭いをさせようってのか!」
「いえ、正確に言うとピットのモンスターに関する調査です。内容は二つ。第一は、これまでにピット周辺に現れたモンスターのデータが欲しいそうです。モンスターの種類、確認した日時と場所、攻撃性と危険度などですね」
「……それくらいなら、こちらの手持ちにあるな」
「第二は、これも基本的には同じ内容ですが、ピットに近づいた場合、どの場所にどんなモンスターが出現するかだけを調べて欲しいそうです。モンスターを見かけ次第撤退するようにと」
「……出現するモンスターの確認だけか」
「どうやら軍の方では、どこまで近づくとモンスターがアクティブになるかを知りたいようですね」
「ふむ……それくらいなら、さほど危険はないか」
「依頼を受けますか?」
「そうだな……内容をもう一度確認して、問題がないようなら依頼を公布しよう」
まったく、いつもいつも軍人ってのは無理難題を吹っ掛けやがる……。イラストリア王国での火追いなどという暴挙をさせられた挙げ句に多くの冒険者を失ったギルドマスターは、苦々しい思いで依頼票を眺めていた。
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三幕目の場面はピットの近く。
『ダバル、性懲りもなく冒険者がやって来ました。どう対処しますか?』
『……待ちなさい、フェル。動きが少々気になりませんか?』
『言われてみれば……妙に逃げ腰のような……』
『……フェル、攻撃は控えましょう。どうやらあの冒険者たちは、こちらのテリトリーの広がりを探るためにやって来たようです。こちらの手の内を明かさずに始末しなくては、閣下のご意向に添えません』
『では、通信妨害を?』
『いえ……それもやめましょう。どの距離で通信妨害を開始するのかという情報を与える事になります。このまま何もせずに誘き寄せて、逃げようとした瞬間に捕獲しましょう』
『了解』
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四幕目の場面は、再びニルの冒険者ギルド。
「……ポルカたちからの連絡は途絶えたままか?」
「はい……一号立坑の開口部が見えてきたという連絡を受けたのが最後です」
「……向こうが一枚上手だったようだな。こっちの任務が探索だと見抜いて、何一つ情報を与えずに対処しやがった」
「……ポルカたちはもう?」
「あぁ、駄目だろうな……」
この国にはモンスターが少ないため、冒険者ギルドもそれほど大きな発言力を持ちません。それもあって、軍部から無理難題を押し付けられる事は少なくありません。
明日は挿話になります。




