第五十七章 テオドラム 3.ピット~情報収集~
捕獲した冒険者や斥候兵――の屍体――から一通りの情報を読み取ったが、テオドラムという国は結構歪な国だな。一応は農業立国を唱えているんだが、国土の大半が平地で耕作適地が多いために、却って農業技術の発達は遅れ気味、中~低品質の作物を大量に供給するだけの国になってしまっている。歴史的にも切り取り勝手な膨張主義の政策をとってきており、国力を軍事力へ傾注している感じだ……地球世界にも似たような国があったな。と、いう事は、あの国と同じような問題点を抱えている可能性があるか……。
軍やギルドの組織についての情報を読み取った後で、アンデッド化する価値があるかどうかをダバルに聞いてみたんだが、冒険者の方は一山幾らって感じだったので特に要らないそうだが、今回捕獲した斥候兵の方は使えそうだというので、アンデッド化してダバルに預けておく。
その際、武器についても一応チェックしてみたんだが……。
『……なぁ、斥候兵が持っていた剣なんだが、この国の平均的な剣なのか? ダバル、お前、武器の目利きができるなら、ちょっと見てもらえるか?』
『目利きと言うほどの事はできませんが……標準的な品質の剣に見えますが?』
『……そうなのか』
錬金術の素材調査をかけて判ったんだが、斥候兵が持っていた剣――官給品だろう――は比較的新しいものだが、成分的には砒素の含有量が多かった。いや、剣を持っているだけで中毒になるような事はないが、砒素の含有量が多いと、鉄としての品質は下がるとか聞いた事があるんだよな。念のために冒険者たちが持っていた剣を鑑定してみたんだが、こちらの砒素含有量は一般的な範囲に収まっていた。ちなみに、よく手入れされてはいるが、何れも年季の入った――あからさまに言えば使い古した――剣だった。さて、これをどう解釈するべきか……。
俺は剣の事を一旦頭の片隅に追いやると、通信の魔道具を手に取った。
『……コンパクトで洗練されたつくりだな。強度も確保されているようだ……武人の蛮用に耐えるべしってことなんだろうな。しかし……』
使用されている術式はまだ稚拙な感じだな。メンテナンスを考えてあえて簡単なものを用いているのかとも考えたんだが、どうもそうではなくて技術が未熟なだけのようだ。確かに魔法技術の面ではエルフには遠く及ばない。イラストリア王国軍のレベルは知らんが……聞くところによると魔術兵という兵科があるようだし、それなりの水準にはあるんだろう。
補足しておくと、イラストリア王国軍の編成は他国に較べて魔力持ちの割合が多い。王国の中隊は五個小隊に司令部、通信・伝令兵と医務兵からなっているが、五個小隊のうち一個小隊が魔術兵である(他は歩兵と騎兵が二個小隊ずつ)。なお、魔術兵は全員が魔術師ではなく魔道具を使う者も含まれるが、それでも有力な魔術兵の存在は、イラストリア王国軍を他国の軍と一線を画すべき存在にしていた。
『まぁ、魔術の術式はともかく、本当に気になるのはこの魔石だな。綺麗に整った形からして、天然の物には見えない。人為的に生産したか……』
魔石の作製で色々とやらかしたクロウだから気付けた事であろう。国内に大きな山林を持たず、従ってモンスターからの魔石の入手が難しいテオドラムでは、魔術師が原石に魔力を充填する事で魔石となす技術を開発していた。これは最重要軍事機密であり、厳重に秘匿されていたが、クロウはあっさりと見破ってしまった。実のところ、通信の魔道具には開封を防ぐための術式――こっちの術式は結構しっかりしたものだった――がかけられていたのだが、クロウは全く自覚無くそれを無効化していた。
『テオドラムか……妙にアンバランスな国のようだな』
クロウは国としての危うさが暴発に繋がるのを危惧していた。




