第五十七章 テオドラム 2.ピット~斥候兵の出現~
その日、ピットの周辺に現れた一団は、それまで来ていた冒険者とは明らかに違っていた。
『どう思います? フェル』
『これは……閣下にお知らせした方がいいかもしれませんね』
ピットを預かる二人からクロウの許へ連絡が入った。テオドラム王国軍の斥候と見られる部隊が出現した、と。
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『……なるほど。正規の軍装とは違うようだが……確かにあの動きは訓練を受けた兵士のそれだな』
ピットからの連絡を受けた俺は、すぐさまダンジョン転移でピットを訪れた。王家の紋章や部隊章のようなものは外しているようだが、あの動きはどう見ても本式の訓練を受けた兵士のそれだ。
『どういう対処をとった?』
『とりあえず、表に出ていたモンスターは、監視役を除いて全て引き上げさせました。監視役のモンスターにも、不用意に近寄らないよう指示してあります』
上等だ。
『それでいい。こちらの情報は何一つ与えるな。それで、やって来た連中はこれで全部か?』
『はい。上空からの広範囲偵察も実施しましたが、他に部隊は見られません』
前進部隊の他に、後方で状況を監視する者がいる筈なんだが……。
『あの連中だが、どこかに報告している様子はないか?』
『あ、そう言えば、魔道具らしきものに何か話していました。通話か録音かまでは判りませんが』
なるほど……魔道具での通信か。監視役を別途に派遣する手間を省いたと見えるな。なら……
『連中が以前に連絡を取った位置は特定できるか?』
フェルに問いかけると即座にマップ上に位置を表示した。現在位置のかなり後方だな。よし。
『魔力による通信妨害を実施。最初は弱く、次第に強度を上げろ。どの時点で気づくのかを確認したい』
少しずつ強度を上げていったんだが……。
『……何の反応もないな……』
『……通信妨害に気づいていないんでしょうか?』
既に魔道具による通信は不可能なくらいに通信妨害がかかっている筈なんだが……。
『動きを見る限りだと兵士としての錬度は高いようなんだが……魔術戦の才能は無いのか』
『閣下、テオドラムには魔力を持った者は多くありません』
『軍には魔術師が配属されていますが、それとても魔術兵を編成できるほどの人数はいない筈です』
そうなのか?
『……だとすると、戦術などもイラストリアとはかなり違っている筈だな……先日片付けたと言っていた冒険者だが、屍体はもう吸収したか?』
『いえ、下っ端はともかく主立った者は吸収せずに残してあります』
『閣下がアンデッド化もしくは訊問される事を考えまして』
こいつら……呼吸を合わせたように見事に分担して話すな。
『よし、冒険者の連中からは後で色々聞くとしよう。だがまず、この兵士どもを戴くとしようか』
上手い具合に大形の転移トラップの傍に来てくれたんで、即座にダンジョン内に拉致して、ダンジョンモンスターから抽出した――殺したわけじゃないぞ?――毒ガスで無力化した。
二名に聞いてみると、外番のモンスターの経験値にする以外は、やはり転移トラップを使う事が多いらしい。まぁ、毒部屋とか水部屋に送り込んだらいいわけだから手間は要らんわな。しかし、そろそろそれ以外の罠も充実させておいたほうがいいかもな。大人数で攻めてくる場合も考えないと。
ともあれ、捕虜ども――死んでいるけど――から色々聞くとしようか。




