第五十五章 クリスマスシティー 6.帰還
クロウたちが試験航海から帰還します。
試験航海に出てから三日、俺たちは目的の試験を終えて帰路についていた。
『もう……船旅も……終わり……ですか』
『主様、船の旅って生まれて初めてだったんですけど、凄かったです』
『いや……空を飛んでいる時点で船旅とは言いづらいけどな……』
現在は行く手を遮る者とて無い上空三千メートルを飛行中だ。さすがにこの高さになると、ちょっかいをかけてくるモンスターもいないようだ。それはそれでつまらん気もするな。対空戦の試験もしておきたかったんだが……。
『提督、僭越ながら、自ら空を飛んで闘うのは空中戦と言うのでは?』
……まぁ、そうとも言うな。いやしかし、その場合でもこちらが使用するのは機関砲などの対空兵器だ。対空兵器の試験である以上、対空戦と言っていいんじゃないのか? ……少し混乱したので頭を切り換える。現実に相手がいない以上、余計な事で頭を疲れさせるのは無駄だ。
『ご主人様、この後はいかがなさいますか?』
『下手に降下すると騒ぎになりそうだしな……』
実のところ、巨体のクリスマスシティーをどうやって秘密裡に運用するかというのが一番の難問だったりするんだよな。
『マスター、空飛ぶダンジョンって、作れないんですか~?』
おお……空中城砦か。なんて心躍る提案をするんだ、キーン。しかし……
『できるかどうか判らんし……その場合でも目立つという問題は変わらんぞ』
『隠蔽か……認識阻害の……魔術を……かけておけば……いいのでは?』
『何を言う、ハイファ。下界の民を威圧できない空中城砦に、何の意味があるというのだ』
『……はぁ?……そういう……ものですか?……』
たとえ中二病と誹られようと、これは譲れない。下界を傲然と見下ろしてこその空中城砦だろう。……いつか造ってみようか。
結局この日は空中に異空間を展開してクリスマスシティーごとそこに入り、クリスマスシティーはそのまま待機。俺たちはダンジョン転移で戻る事にした。
『済まんが、またしばらくは待機状態に入ってもらう事になる。尤も、俺の予感が正しければ、遠からずお前に働いてもらう事になりそうだが……』
『アイアイ、提督。その時まで休ませてもらいます』
・・・・・・・・
そのまま洞窟に戻ってもよかったんだが、留守中にやって来たとか言うテオドラムの冒険者の件が気になっていたので、皆の同意を得てからピットへと転移する。
『フェル、ダバル、留守中ご苦労だった。早速だが、テオドラムの冒険者とやらの一件を報告してくれるか』
『お帰りなさいませ、閣下。映像と音声の記録はこちらにございます。屍体もそのままとってあります。どちらを先になさいますか?』
『記録の方から頼む』
……映像と音声の記録を視聴する限り、「火追いの狩り」とやらは冒険者ギルドからの依頼だったようだが……なんでギルドがそんな依頼をする? ギルド自体が誰かからの依頼を受けたと言う事か? 表向きの依頼人が冒険者ギルドになっているという事は、表に出る事ができない依頼人という事か? 例えば王国とか。
……冒険者――の屍体――を訊問した方がいいな。
訊問してはみたんだが、大した事は判らなかった。さすがに冒険者ギルドも簡単に尻尾を掴ませるようなヘマはしないか。しかし、冒険者たちは薄々と、この依頼が国からのものではないかと気づいていたようだ。
しかし……テオドラムはなぜこんな事をする? イラストリアを挑発するようなもんじゃないか……いや、挑発しているのか? だとすれば……どのみちテオドラムが何らかの行動を起こす可能性が高い。そしてその日はそう遠くない筈だ。
のんびりしている暇は無いかもしれんな……。
明日から新章ですが、テオドラムの話ではありません。ちなみに、空中城砦の建造予定は今のところありません。
第二十五章二話のクロウの台詞に矛盾があったので修正しました。この場を借りてお知らせします。




