第五十五章 クリスマスシティー 5.試験航海~二日目、初陣~
初陣ですが……呆気ない結果に終わりました。
『クリスマスシティー、状況を表示せよ』
俺の指示に答えて、クリスマスシティーが状況表示盤を展開する。
『速度約三十ノット、距離三キロメートルか……』
時間の余裕は無いな。
『提督、CICに移られますか?』
『時間がない。このまま迎撃体制に移行する。未確認物体は生物か?』
『イエス、サー。魔導レーダーの解析によれば、全長約五十メートル、海蛇型の生物と推定されます』
シーサーペントってやつか。だが生物なら……
『フォノブラスター用意。集束率最大。距離五百でぶつけてやれ』
『アイアイ、サー』
三十ノットで距離五百だと、接触までに三十秒しかないが、やれる筈だ。
『……距離七百、六百五十、六百、五百五十、ファイア!』
発振するやいなやターゲットはもんどり打つように暴れると、そのまま浮上して来た。五百メートル先に浮上したのは五十メートルほどの巨大な蛇体、いわゆるシーサーペントというやつらしい。
『ターゲットの生命反応消失。仕留めたようです』
『フォノブラスター一発でか? 存外に脆かったな』
フォノブラスターと言ってはいるが、実際はソナーの音響を最大限に上げてターゲットに叩き込んでいるだけだ。最初からそういう用途を念頭に置いて設計されたソナーというわけだ。強力な軍用ソナーの使用が海棲生物の死を引き起こすという指摘を考慮し、少なくとも忌避効果はあるだろうと考えて作ったんだが……予想以上の効果だったな。主砲の出番がなかったよ。
『提督、屍体を収容しますか?』
『そうだな。食糧か素材、あるいはお前の魔力源にもなるだろうから、見逃す手はないな。回収してくれ』
『雑魚はどうします?』
雑魚?
『ターゲット以外にも、付近の魚などがかなり浮かんでいます。集束率を最大にしてなお影響が出たようです』
……しまった。俺の失策だ。こいつは無闇に使えんな。
『それらも併せて回収してくれ。周辺被害が大きいようでは、使用に制限をかける必要があるか?』
『僭越ですが、提督、主砲弾の爆発でも同様の被害は避けられません。寧ろ、範囲を狭める事ができる分、被害を少なく抑えられるのではないかと』
むぅ……そうか……。
『解った、クリスマスシティー。過大な火力の濫用は控えるが、お前の進言を容れて、不必要にそれに縛られない事にする。とりあえず、この後に予定している主砲と両用砲の試射は模擬弾で行なうように変更する』
『アイアイ、サー』
浮き上がった魚の回収を終えた後で海域を移動し、当初の予定に従って主砲と両用砲の試射を行なう。なお、弾頭は模擬弾に変更した。実弾の破壊力については、後日陸上で行なう事にして、本日は命中精度の試験だけを実施する。
『……第一・第二砲塔の初撃で夾叉、しかも主砲・両用砲ともに撒布界はかなり狭いな。砲自体の性能も、お前の狙撃能力も高いという事だな。見事だ、クリスマスシティー』
『お褒めにあずかり恐縮です』
主砲と両用砲の試験が成功裡に終わった頃、ピットから緊急の連絡が届いた。
『閣下、テオドラムの冒険者らしき連中がやって来ました。例の「火追いの狩り」とやらを行なうつもりのようです』
俺は舌打ちをしてフェルに告げる。
『解った。その場にいないのは残念だが、こっちも手が離せない状況だ。予定通り始末しろ。不測の事態が生じたら連絡するように』
まだクリスマスシティーの試験が全ては終わっていない段階で、ここを離れるわけにもいかんしな。
一通りの試験を終えた頃には辺りは暗くなってきたので、巡航速度で試験海域を離脱後、適当な海域を遊弋するように指示して、俺たちは就寝する事にした。明日は王国に戻る事になるだろう。あ、ピットの方は何の問題もなく片づいたそうだ。
テオドラムで何か起きているようですが……その話はもう少し後になります。
【修正報告】第一章第六話のスレイの発言に木魔法についての言及がないとのご教示を戴きましたので、スレイの台詞を少しだけ変えています。
また、第十四章第一話の、首脳陣三人の声が重なる部分の表記法を修正しました。




